このレポートのまとめ
1.米国で失業が急増
2.議会は2兆ドルの景気刺激策を審議中
3.連邦準備制度理事会は一連の緩和措置を発表
4.ベアマーケット、リセッションの両方が到来
新規失業保険申請件数が激増
3月26日(木)に発表された米国の新規失業保険申請件数は、予想100万件に対して328.3万件とひどい数字でした。
新型コロナウイルスでレストラン、劇場、映画館、百貨店、専門店の多くが閉店、もしくは大幅にスタッフを削減して営業していることがその原因です。
サービス業は米国の雇用の80%を占める巨大なセクターであり、新型コロナウイルスはサービス業を直撃しています。
米国のサービス業に従事する労働者の多くは働いた時間の分だけWage(時間給)を支払われています。現在のように外出禁止令が出され「出社するに及ばず」と会社側から言われてしまえば、収入はゼロになってしまうのです。ここが自宅待機になっても会社から月給が支払われる日本の正社員と違う点です。
こういう場合、労働者は会社から正式に解雇を言い渡されなくても、働きたいのに働けなくなってしまった時点、つまり収入が無くなってしまった時点で失業保険を申請することができます。今回、いきなり新規失業保険申請件数が328.3万件にジャンプした理由はそのためです。
議会の対応
こうした事態を予期し、議会は緊急に労働者や企業を支援する2兆ドルの景気刺激策を策定中です。上院で可決された2兆ドルの景気刺激策の内訳は次のようになっています。
1. 総額3,010億ドルの個人への直接振込み。これは13万円を基本とし、後は扶養家族の大きさにより上乗せされます。
2. 総額2,500億ドルの失業保険の拡大。通常の失業保険に毎週6万6000円上乗せすることに加え、失業保険がもらえる期間も通常の26週から39週へ延長。
3. 総額3,490億ドルのスモール・ビジネス向け融資。従業員を解雇しなければ返済の必要はナシ。
4. 総額5,000億ドルの融資、ローン・ギャランティー、その他支援金を大企業に与える。その中には航空会社向けの290億ドル、ボーイングをはじめとする国防にとり重要な企業向けの170億ドルを含む。残りの金額は米連邦準備制度理事会(FRB)が財務省の設立するSPV(特別目的事業体)を通じて社債などを購入し、損失が出た場合、それを補填することに使われる。
5. 総額320億ドルの航空会社従業員への一時金の支給。総額1,500億ドルの州政府への支援金。
6. 総額2,210億ドルのペイロール・タックスの減免。
7. 総額3,400億ドルの一時支出補助金。その中には病院、退役軍人へのケア費用として1,170億ドルを含む。さらに地下鉄などの失われた売上高を補う250億ドルを含む。
この法案は下院に回され金曜日に投票に付されます。可決した場合はトランプ大統領の署名を経て成立、3週間以内に労働者の銀行口座に13万円が着金する見込みだと言われています。
米連邦準備制度理事会の対応
一方、米連邦準備制度理事会は2回の臨時利下げでアメリカの政策金利であるフェデラルランズ・レートを0~0.25%に引き下げた上、3月23日に発表した7,000億ドルの量的緩和政策を無制限に拡大すると発表しました。
さらに商業不動産担保証券(CMBS)も量的緩和政策の購入対象証券に加えると発表しました。
加えて、プライマリー・マーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティ(PMCCF)を通じて新発の社債を購入します。そして、セカンダリー・マーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティ(SMCCF)を通じて既発の社債やETFも購入します。
また、自動車ローン、自動車リース、スチューデント・ローン、クレジットカード債権などの資産担保証券(ABS)を購入するプログラムであるターム・アセット・バックト・セキュリティーズ・ローン・ファシリティ(TALF)を行うと発表しました。
投資戦略
米国の株式市場はテクニカル・アナリストのベアマーケットの定義(=高値から20%以上の下落)を満たしました。また冒頭で見たように失業も急増しているのでリセッション(景気後退)入りも確実です。
そのことは1. 株価の面でも、2. 経済のファンダメンタルズの面でもリセットボタンが押されたことを意味します。
つまりここからは新しいスタートになるわけです。
我々はベアマーケットならびにリセッションのまっただ中に居るので、ブルマーケットの時とはまったく逆の態度で投資に臨む必要があります。
すなわちブルマーケットのときは「押し目はすべて買い!」というスタンスで良かったわけですが、今はベアマーケットなのでもっと慎重な態度が必要というわけです。
幸い、株式市場の割高感は払しょくされましたし、今回の突然のショックが金融危機に発展しない限りリセッションはそれほど長引かないと思います。あくまでも新型コロナウイルスの新規感染者がどこでピークを打つか?にかかっているわけです。
つまり今ではないけれど、近い将来にまた株式を買い始めることができる日がやってくるというわけです。