65歳以上でも一定条件を満たせば雇用保険加入義務が
現政権は「生涯現役社会」を重点政策の1つに掲げ、70歳までの雇用の義務化を目指しています。2017年にはひと足早く、雇用保険の対象年齢の上限(原則65歳)が事実上撤廃されました。これにより、65歳以上でも(1)1週間の所定労働時間が20時間以上で、(2)31日以上の雇用見込みがある――という適用要件を満たせば、「高年齢被保険者」として雇用保険に加入することが必須となったのです。
雇用保険の保険料は会社と労働者の双方が負担しますが、健康保険料や厚生年金保険料のように“折半”ではなく会社負担の方が重くなっており、いきなり「65歳以上の労働者の雇用保険料を負担して」と言われても会社側は困惑してしまいます。
そうなると「雇用保険の適用にならないよう、1週間20時間未満で働いてほしい」という会社が増えるかもしれず、今度は労働者側が不利益を被りかねません。
そこで、2019年度までは高年齢被保険者に関して「労使双方の保険料を免除する」という猶予期間が設けられたのです。
その猶予期間も2020年3月で終わり、4月からは高年齢被保険者にも雇用保険の保険料負担が発生します。
雇用保険の保険料は給与や賞与の額面金額(各種手当を含む)をベースに、あらかじめ決められた保険料率を乗じて算出され、給与・賞与から天引きされます。健康保険料や厚生年金保険料のように1年を通じて一定ではなく、月ごとに変動する形です。
保険料率は2019年度から据え置かれ、本人負担は一般事業(農林水産・清酒製造の事業と建設の事業を除く)で「1,000分の3」になります。つまり、給与の額面が20万円であれば600円、30万円なら900円。仮にボーナスが50万円出たとしても雇用保険料は1,500円ですから、「意外に安い」と感じる方が多いのではないでしょうか。
なお、最初に雇用保険料が徴収されるタイミングについては、勤務先の給与の締めや支払いのタイミングによって変わるため、注意が必要です。
例えば、「月末締め・翌月10日払い」だとすると、4月10日に支払われる給与からは雇用保険料は天引きされません。4月10日払いの給与の賃金締め切り日は前年度の3月31日で、前述の猶予期間に含まれるからです。
65歳以降も雇用保険に加入することのメリット
雇用保険料が意外に安いことに胸をなで下ろしている方も多いと思いますが、実は、65歳以上の労働者が雇用保険に加入するメリットは少なくありません。
最大のものは、若年層の失業手当(基本手当)に相当する「高年齢求職者給付金」が支給されることでしょう。
具体的には、高年齢被保険者が通算6ヶ月以上雇用保険に加入した後に離職し、就職の意思があっていつでも働ける状態なのに肝心の仕事が見付からない場合は、基本手当(離職前6ヶ月の賃金のおよそ50~80%、上限あり)の30日分(被保険者期間1年未満)、または50日分(同1年以上)が一時金として受け取れます。
高年齢求職者給付金は公的年金との併給が可能で、これを受け取ったからといって年金がカットされることはありません。
雇用保険に1年以上加入すれば、「介護休業給付制度」も利用できます。
これは、配偶者や双方の父母、兄弟姉妹、子、孫(別居したり、扶養関係にない親族もOK)の介護のために2週間以上の休業が必要になったとき、1人の家族につき通算93日分の休業を最大3回に分けて取得することができ、その間は賃金の67%が雇用保険から支払われるというものです。
さらに、ビジネスや介護・福祉、不動産、お金の専門家などの資格を取得するため厚生労働大臣が指定する教育訓練(通信教育を含む)を修了した人には、授業料などの一部を支給する「教育訓練給付制度」もあります。
「一般教育訓練給付金」と「専門実践教育訓練給付金」が用意されていますが、利用しやすいのは間口の広い前者の方。被保険者期間3年以上(初めて制度を利用する人は同1年以上)の人を対象に、支払った費用の20%相当額(最大10万円)が補てんされます。
せっかく雇用保険に加入しているのですから、保険料徴収を機にこうしたメリットにも着目し、いざというとき、有効に活用したいものです。