このレポートのまとめ

1.FRBは2回の臨時利下げを発表し打てる手を使い果たしたように見える
2.今必要なのはむしろ財政出動だ
3.国民一人ひとりに小切手を郵送する案が検討されている
4.この方法は最もコストが小さく、即効性がある

FRBは打てる手を使い果たした

2月19日(水)に米国株式市場が高値を付けて以来、新型コロナウイルスとサウジアラビアの原油増産という2つのネガティブな材料で米国株式市場は軟調な展開になっています。

米連邦準備制度理事会(FRB)はこれまでに2回の臨時利下げを発表、アメリカの政策金利であるフェデラルファンズ・レートは0~0.25%に下がっています。FRBは7,000億ドルの債券買入プログラムも発表しました。

FRBが危機感を強めている理由は、普段なら流動性が高いはずの米国債の取引がぎこちなくなったことによります。米国債は住宅ローンその他の金融商品の金利を決めるベンチマークであり、その取引が円滑でなくなると金融システム全体に悪影響を及ぼします。

株式市場の参加者は矢継ぎ早のFRBの利下げを見て安心するどころか逆に不安を覚えています。FRBが打てる手を全て使い果たしてしまったのではないか?という懸念が台頭しているからです。

いずれにせよ、新型コロナウイルスの発生による経済活動の中断への対応は、金利政策よりも直接労働者や会社経営を助ける財政出動をするほうが今の局面では有効だと思います。

国民一人ひとりに小切手を郵送する案について

そこで登場したのが「国民一人ひとりに小切手を郵送する」という救済策です。4月6日と5月18日の2回に渡り、総額5,000億ドルの支払いをなるべく早い段階で行うことが検討されています。

その他にも航空会社に500億ドル、その他の資金繰りに困っているセクターに1,500億ドル、中小企業に3,000億ドル、合計1兆ドルの財政出動になると報道されています。

このアイデアが出て来た背景を説明します。

今アメリカ政府は国民やビジネスに対し、新型コロナウイルスの拡散を防止するために集会を自粛し、レストランもドライブスルーだけにし、スポーツ・イベントやコンサートやお芝居もキャンセルして欲しいと呼びかけています。

このためウエイトレス、ホテルの従業員、劇場のスタッフ、スポーツ・アリーナの清掃員などの、サービス産業に従事する多くの労働者が自宅待機・一時帰休を言い渡されています。

それらの労働者の大半は月給制ではなく、働いた時間だけ賃金を貰います。すると「今月は劇場を閉めるので出社に及ばず」と言われると、その日から収入はパッタリ途絶えてしまうのです。

その場合でも毎月の家賃は払わないといけませんし、マイカーのローンやクレジットカードの支払いもする必要があります。

すると本人の落ち度ではなく、国の方針として伝染病を抑え込むために休業を強いられたビジネスや労働者は、それが原因で毎月のやりくりができなくなってしまうリスクが生じるのです。

家賃の滞納でアパートから立ち退きを迫られる、マイカーのローンが払えずクルマが借金のカタに取り押さえられる、クレジットカードの支払い遅延が増えて銀行はそれを損金計上しなければいけなくなる…そういう感じで国全体が悪循環のスパイラルに陥ってしまうリスクがあるのです。

金融機関が破綻すると、その後始末には莫大なコストがかかります。それより自宅待機・一時帰休している間の最低限の生活費を政府が出すことで、危機の連鎖が起こる前にそれを食い止めるというのが国民一人ひとりに小切手を郵送する解決法の狙いなのです。

結局、この方法なら今一番困っている国民に直接救いの手を差し伸べることができますし、危機回避に即効性があります。そして未然に恐慌を回避することで、結果的に一番安くつくと思われます。

このように考えるとこの手法は大盤振る舞いでもないし、荒唐無稽でもないことがわかります。

今これを書いている3月18日(水)の時点では下院がこの法案を策定しています。なるべく早く投票に付し、可決後、それを上院に回し、上院でもスーパー・マジョリティの賛成を得る必要があると思います。そして米大統領が署名する必要があります。すでに労働者は自宅待機・一時帰休しているわけですから、この救済策は一刻を争います。