※本コンテンツは2019年11月13日に開催された、マネックス証券主催、森ビルOFFICE LIFE事務局協力のイベント「2020年のマーケット展望と投資戦略の考え方」の書きおこし記事です。(内容を一部抜粋して掲載)
講師:マネックス証券株式会社 チーフ・ストラテジスト 広木隆
資本主義は格差を生むなど様々な問題はありますが、逆にこれに変わるシステムは今のところ考えられません。極端な株主資本主義やマーケット重視などは修正されると思いますが、この先しばらくはこのシステムが維持されて行くでしょう。このシステムの根幹をトマ・ピケティの『21世紀の資本』から学びましょう。
俯かん的な視座 極端な株主資本主義/市場原理主義の修正
資本主義は格差を生むなど様々な問題はありますが、逆にこれに変わるシステムは今のところ考えられません。極端な株主資本主義やマーケット重視などは修正されると思いますが、この先しばらくはこのシステムが維持されて行くでしょう。このシステムの根幹をトマ・ピケティの『21世紀の資本』から学びましょう。
「ピケティの不等式 r>g」を見たことをある方は多いと思います。「r」とは、資本のリターン(return)の「r」、「g」は経済成長グロース(growth)の「g」、GDPの伸びみたいなものです。
資本のリターンの方が、GDPの伸びよりも常に高い、というのがこの本のメッセージです。資本家は働かなくても不労所得で生活していける。一方、一生懸命働いても豊かになれない人もいる。不平等ですが、昔から経済のメカニズムがそうなので、それは仕方がないことだとこの本では言っています。
代表的な資本の収益率というのは6〜8%。これは過去50年間で30倍になった、NYダウの7%のリターンと一致します。だまっていてもリターンを稼ぎ出すような資本や資産を持たないと、ますます格差が広がる一方なんです。
投資の行動経済学“限界効用”と“現状維持バイアス”
なぜマーケットの予想は難しいのでしょうか?市場の価格を予測するとは、人間の「心」を読むことです。市場の価値とは人間が作るものです。人間の気持ちは非合理的で、その人自身も分かりません。
こちらはゼネラル・エレクトリック(GE)とナイキ(NIKE)の株価を表したものです。GEは下がり続け、NIKEは上がり続けているという、対象的な株価です。
ここで株式投資をしているAさんとBさんを例えてみます。
AさんはGEの株を持っていて、1年前にNIKEに乗り換えようと思ったけれど結局、乗り換えませんでした。「もし乗り換えていたら、大儲けしたのに…」と悔やんでいます。
Bさんは、ずっとNIKEの株を持っていたけれど、1年前にGEに乗り換え、損をしてしまいました。「もし乗り換えていなかったら、大儲けしたのに…」と悔やんでいます。
GEの株を持っているという点ではどちらも同じ状況です。今回はどちらが後悔しているでしょうか。Bさんの方が強く後悔しています。Aさんは行動しなかった後悔、Bさんは行動したことへの後悔です。人は行動して失敗すると、より後悔します。現状維持バイアスがかかります。行動して何かあったら嫌だな、だったらこのままでいいやと思ってしまうのです。
保守的なリスク回避は最期に後悔する
ここまでは行動経済学の理論ですが、ここからは私独自の理論です。みなさん保守的なリスク回避の選択を取りがちです。でも、それは死ぬときに後悔をします。1,000人を看取ったターミナルケアの専門家である大津秀一さんは、著書で「人間は死ぬときに、しなかった事を後悔する」と書いています。
後悔を統計的に説明すれば、コーネル大学のトーマス・ギロビッチが行った調査があり、75%はしなかったことを後悔していると言います。やらないで後悔するよりも、やって後悔する方がいいわけです。
今日セミナーにご参加いただいた方にはぜひ、株式投資に興味をもっていただきたいと思います。
質疑応答
Q:投資における、長期目標はどうしたらいいですか?
目標は立てず、短期で上がりそうな株を怪我しない程度に小さく買う。
個別の銘柄を持っているのですが、たいして上がりも下がりもしないものがあり、損切りすべきか迷います。また、どのような長期目標を持って投資すればいいのか教えてください。
あなたの人生なので、私が目標設定のアドバイスはできません(笑)。私は長期目標はいらないと思っています。今は企業でさえ、長期目標を持たないケースが増えています。今、世の中のスピードはものすごく早い。長期目標を立てたところで、すぐ世の中は変化してしまいます。ですから、ライフプランは変わる可能性が高いです。そのため、目標は立てず、短期で上がりそうな株を怪我しない程度に小さく買うのがよいのではないでしょうか。
長期といっても長期の予想はたてられないので、短期をずっと繰り返して(継続して)いく。42.195キロのマラソンを走るのに、初めから42キロのゴールを見て走るのではなくまず最初の1キロ、次の5キロと走っていくうちに、気がついたら42キロを完走していた、、、このような形です。
Q:2020年は米国大統領選があります。今から株式投資して大丈夫でしょうか?
株式投資をしていないなら今からでもすべき。選挙結果のような不確実性を回避することは重要だが、リスク要因としてそこまで捉える必要はないと考えます。
2020年のある米国大統領選の結果によって株が暴落するかもしれず怖いということですが、リスクと不確実性は区別しなければなりません。リスクは確率計算で分かりますが、選挙結果のような不確実性は予測が付きません。ですから、不確実性を回避するという点は重要です。
極端に左翼的な候補者が出てきて、トランプが負けそうになったら、いったんポジションを落としておく。全部は売らず、ポジションを半分にするという方法です。万が一のことがおきても、そこからなら損切りもしやすいでしょう。しかし米国大統領選の場合は、リスク要因としてそこまで捉える必要はないと私は思っています。