このレポートのまとめ
- 大統領選挙後まで米中貿易交渉を延期した方がいいとトランプ米大統領が発言
- トランプ米大統領に切迫感は無い
- むしろ「好材料の出尽くし」が怖い
- ジンクス的には1月・2月株高を演出する必要がある
- 12月15日の新関税導入は避けられないという諦観が広がっている
トランプ米大統領の「軽い発言」
欧州を訪問中だったトランプ米大統領は「米中貿易交渉は大統領選挙後まで延期したほうがいいかもしれない」という談話を発表しました。
これまで何度も前言を翻してきたトランプ米大統領のことですから、今回の発言も行き当たりばったりの態度から出た軽いコメントだと割り引いて考える必要があると思います。
しかしその一方で、貿易交渉をすぐに解決させない方が有利だという考え方にも一定の道理があります。
中国は合意を必要としているがトランプ米大統領は必要としていない
その理由として、中国側はそろそろ貿易問題に本格的に取り組む必要性に駆られているものの、米国にはディールを急ぐインセンティブが少ないことが指摘できます。
まず株式市場ですが、12月5日までの時点でS&P 500指数は年初来+24.2%上昇しており、マーケットはこれ以上の好ニュースを必要としていないことが指摘できます。
景気そのものも安定的な拡大が続いています。
普通、このように株式市場が強く、経済が好調なときの大統領選挙では現職の大統領が有利だと言われています。
つまりトランプ米大統領はむしろ好材料を将来のために温存しておいた方が良いのです。
なぜなら相場には「理想買い、現実売り」という習性があることが知られています。下手に「米中貿易交渉第1ラウンド成立!」という好材料を市場に与えてしまうと、逆にマーケットが反落するリスクもあるからです。
トランプ米大統領の観点では1・2月の米国市場は高くなければならない
ここで過去の経験則について書きます。まず下のチャートを見てください。
これは大統領選挙の年のS&P 500指数のパフォーマンスを1944年まで遡ったチャートです。
平均(オレンジ色)すると大統領選挙の年は+6.94%で株式市場が上昇していることがわかります。そして現職大統領が勝利したケース(青)では+10.23%のパフォーマンスでした。
興味深いのは現職大統領が敗れたケース(灰色)では1月・2月に株式市場がスランプに陥っている点です。
もちろん、これは「原因と結果を取り違えている!」と批判することもできるでしょう。つまり株が安かったから現職大統領が敗北したのではなく、現職大統領の人気に陰りが見えたことで、これは負けるかもと察知した市場が株を売ったという説明の方が正しいかもしれないのです。
しかしちょっとしたセンチメントが相場に影響し、相場の上げ下げが実体経済にもインパクトを持つ事実を勘案した場合、このような「縁起担ぎ」は、あながち間違っているとも言い切れないのです。
12月15日には落胆させられるかも
さて、目下の差し迫った材料としては12月15日に一度は延期された中国から輸入される消費財への関税がいよいよスタートする件があります。
米中双方のこれまでの交渉の目標は「少なくとも12月15日の関税だけはSTOPしよう!」というものでした。
しかし「時間切れアウト」が迫っており、とりわけ米国側には関税回避の熱意が失われてしまったかのような印象があります。
トランプ米大統領は来年1月末にスイスのダボスで開催される世界経済フォーラムの場で、第1ラウンドの合意に調印したいという意向を持っていたと言われます。その理由はトランプ米大統領という人はテレビ映り、とりわけ「これは絵になるか?」ということを気にする気質であり、ダボスの晴れ舞台は、それにふさわしい機会だからです。
しかし上に説明したような諸々の考慮点から見て、今は好材料を出すことを急ぐ必要はないなという判断に傾いたとしても不思議ではありません。