前回から引き続き、相続税の申告にあたって、相談者から多くいただく質問をピックアップして解説します。

相続人である配偶者が認知症、意思表示が難しく遺産分割協議ができない

高齢の方が亡くなる場合、その配偶者もご高齢であることが多く、認知症などにより自身の意思表示ができない状態となっていることがあります。

後述の相続人に音信不通の方がいる場合と同様、この状態では遺産分割協議ができませんよね。この場合には、認知症である配偶者について、裁判所に後見開始の審判の申立をする必要があります。この申立によって成年後見人が選任された後に、原則としてその選任された成年後見人が遺産分割協議に参加することになります。

なお、この場合に相続税の申告期限について考慮するポイントがあります。相続税の申告期限は「相続開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」とされています。しかしながら認知症の方の場合には、相続開始があったことを知ることができません。そのため、認知症の方については「後見人が選任された日の翌日」から10ヶ月をもって申告期限とするように定められています

相続人の中に音信不通の者がいる場合、相続税の手続きはどうなる?

何らかの都合で相続人の中に連絡のつかない方がいるケースです。十数年前に家出したきり連絡が取れなくなってしまった、中には興信所に頼んで探してもらったけれど見つからなかったという方もいます。これでは遺産分割協議ができませんよね。

この場合にはまず、音信不通の方の財産を管理する人、「不在者財産管理人」の選任を裁判所に申し立てることになります。これにより選任された不在者財産管理人に、一定の手続きを経て、音信不通の相続人に代わって遺産分割協議に参加してもらうことになります。

かつて私が関わった不在者財産管理人の申立手続きにおいては、裁判所の調査によって行方不明の方が収監されていた記録が出てきたりだとか、手続中にひょっこりその行方不明の方から電話連絡があったりだとか、想定外のことが起こることもあります。ときに、連絡を絶たれていた方、帰りを待っている方、それぞれの想いが垣間見える場面に直面します。

父が死去し、相続人は長男の私と妹の2人――具体的な申告手続きの方法は?

相続税の申告と納税に関する具体的な手続きについてのご質問です。どこで?誰が?どのように?具体的な手続きについてご不安に思っている方も多いようです。

まず相続税申告書の提出先についてです。法人税や所得税は納税者の所在地、住所地の所轄税務署に申告します。一方、相続税は納税者である相続人の住所地ではなく、被相続人の亡くなる直前の住所地の所轄税務署に申告します

質問者は父親の住所地の所轄税務署に申告をします。長男や妹が父親と離れた住居の場合には、長男や妹の住所地の所轄税務署に提出するということではないので注意が必要です。

また、相続税申告書の提出方法も特徴的です。相続税法においては原則として、相続人が各自申告書を所轄税務署へ提出するよう規定しています。他方で、複数の相続人が共同して提出することができるとして、複数の相続人によって共同で申告書を提出することも認めています。

ただし相続税申告の実務においてはこの原則と容認が逆転しており、経験上、件数としては共同申告が9割以上を占めているように思います。相続税申告書の書式も共同申告が可能な書式となっています。質問者の場合も、長男と妹が共同して1つの申告書を作成、提出すればよいことになります。

相続税を納税したいが振込用紙が届かない

相続税申告書を提出すると、納税用の振込用紙が自宅に送られてくると勘違いされる方がいます。残念ですが、いくら待っても振込用紙は自宅に送られてはきません。

ではどうやって納税するかというと、もっとも一般的なのは税務署や銀行窓口に備え付けられている納付書に金額記載のうえ、現金で納付する方法です。このほかにもインターネット等を利用した電子納税や、一定の決済手数料がかかりますがクレジットカード決済により納税することもできます。

なお、申告手続、納税手続は順序を問いませんので、申告期限までに完了させることが必要です。

 

いかがでしたでしょうか。相続税に関するよくある質問についての解説を2回にわたってお伝えしました。相続税について不明な点は、税理士や税務署へ確認することをおすすめします。