2015年(平成27年)の税制改正により課税件数が約2倍となった相続税、これに伴って相続税に関する質問をお受けすることも飛躍的に増えました。今回から2回にわたって相続税のよくある質問について解説していきます。
申告期限までに遺産分割協議が整わない場合、相続税の手続きはどうなる?
相続税の申告期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月とされています。相続が発生すると、相続人は被相続人の遺産について、どの相続人がどの財産を引き継ぐのかを協議します。これを遺産分割協議といいます。その協議の結果にもとづいて各相続人が相続税申告書を作成し期限内に税務署に提出します。
ただし遺産分割協議が相続開始後10ヶ月以内に成立するとは限りません。遺産を取り合ったり、あるいは、押し付けあったり。そうです、いわゆる“争族問題”の勃発です。こうなると相続税の申告期限である10ヶ月などあっという間に過ぎてしまいます。
相続開始から10ヶ月が経過した際に遺産分割協議が成立していなかったとしても、相続税の申告期限が延長されるようなことはありません。この場合には、遺産を民法に定める相続分で分割したものとして相続税を計算して、期限内に申告しなければなりません。
相続人が配偶者、子ども2人の場合であれば、配偶者が遺産の2分の1、それぞれの子どもが4分の1ずつ相続したものとして相続税の申告を行います。
このように遺産の分割がなされていない場合には、小規模宅地等に関する特例や配偶者税額軽減といった相続税負担を大きく軽減できる制度が適用できません。
申告期限までに遺産分割協議が成立してない場合には、当初の相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出しておき、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合に限り、前述の負担を軽減できる制度の適用を受けることができます
いったん10ヶ月の申告期限までに相続分で分割したものとして申告(当初申告)した後、遺産分割協議が成立し、前回のコラム「相続税ホールケーキ理論」でいうところの各人に切り分けられたケーキの大きさが大きくなった場合には修正申告(不足している税額を追加で納付する手続)、ケーキがさくなった場合には更正の請求(過大に納付した税金を還付してもらう手続)を行うことになります。
遺産が基礎控除を超えていたが、申告の期限が過ぎてしまっていた
某お笑い芸人が「想像を絶するだらしなさ」といって数年間税務申告を怠っていたニュースがありましたよね。お笑い芸人さんの場合には法人税の申告がなされていなかったようですが、法人税であろうと相続税であろうと申告期限までに申告しなければいけないことには変わりません。
申告をせずに期限が過ぎてしまったということは、お笑い芸人さんと同じく、いわゆる無申告の状態となってしまったということになります。税の世界では、忙しかったからとか、知らなかったからというのは言い訳になりません。速やかに申告書を作成して提出しましょう。
税理士によってアドバイスの方法が異なるところはあると思いますが、私なら、期限後に相続税申告が必要であると気づいた場合には、とりあえず手許にある情報でいったん申告と納税しましょうとお伝えします。
そのうえで、適正な申告書を作成するために不足の資料がある場合には、追加で資料収集し、いったん提出した申告を是正するために修正申告を行い、増えた税金を追加で納付するという方法をとることをおすすめします。
これは延滞税というペナルティを考えてのことです。納付が納期限に遅れますと延滞税という利息の性質のペナルティが課されます。
延滞税は、納期限から納付の日までの期間に応じて、本来の税額に延滞税の割合を乗じて計算します。延滞税の割合は年によって異なりますが2019年は納期限から最初の2ヶ月間は年2.6%、その後の期間は年8.9%となります。
放っておくと延滞税は膨らんでいきますし、当初の2ヶ月は税率が抑えられているので、できる限り早期に是正することがペナルティ負担の軽減につながります。
また、申告期限までに申告していない場合には、前記の延滞税に加えて、本来の税額の5%から20%の割合を乗じた無申告加算税というペナルティも加算されます。
父が先日死去、申告書提出の前に相続人の母も死去した――母の申告義務は?
夫婦が連続で亡くなることなんてめったにないでしょ?と思われるかもしれませんが、高齢の方が亡くなるということは、その配偶者の方も多くが高齢です。
長年連れ添われた方を失った喪失感なども気持ちに大きく影響し、年に数件、ご夫婦が申告期限内、つまり10ヶ月の間に連続して亡くなる事案に直面します。まれではありますが、父、長男が申告期限内に連続して亡くなられて申告書作成のお手伝いをさせていただいたこともあります。
仮に夫が死去し、相続税の申告書を提出する前に妻が死去すると、妻の申告と納税の義務を妻の相続人(包括受遺者を含む)が引き継ぎます。ただし、申告と納税の期限については当初の夫の死去した日から10ヶ月でカウントするのではなく、妻の相続開始から10ヶ月となります。