低金利時代が長期化する中、トルコリラやメキシコペソなどの高金利通貨は日本の個人投資家に人気です。値動きを予想し値幅取りするトレーディングというより、外貨預金的にスワップ金利を受け取る長期運用の取引が多いようですが、リスクはないのでしょうか。今回はトルコリラについて検証します。

人口ボーナス期にあるトルコ

トルコは、欧州、アジア、中東、アフリカにつながる要衝に位置しています。2017年時点で人口の半数が30代以下であり、他のEU諸国と比較して最も若年人口を有しています。「人口ボーナス期」(※1)と呼ばれる人口動態であり、「人口オーナス期」(※2)に苦しむ日本とは対照的です。

(※1)「人口ボーナス期」…総人口に占める「生産年齢人口 (15歳~64歳の人口) 」が増加し続けている状態。安価で豊富な労働力があり、社会保障費の負担が少ない。国家予算を社会福祉ではなく経済政策に振り向けやすいため、海外からの投資を呼び込みやすく経済が活性化する。

(※2)「人口オーナス期」…人口ボーナス期の逆で、オーナスは「重荷・負担」を意味する。医療や年金などで支えられる人が支える人を上回り、社会保障費などが重い負担となるため、消費や投資が停滞する。

高金利政策の背景

高いインフレ率

また、もう1つの高金利の背景は高いインフレ率です。トルコでは、1990年代まではインフレ率が50%を超えることが常態化していました。この頃のトルコの為替政策は、インフレに応じて一定の割合で通貨を切り下げる「クローリングペッグ制」でしたので、高インフレの継続でトルコリラは断続的に切り下げられていきました。

国際通貨基金(IMF)主導で構造改革が進められ、トルコは変動相場制へ移行しインフレも沈静化しましたが、それでも10%程度のインフレが常態化しています。高いインフレ率は、経常赤字を中央銀行が通貨を発行することによって補塡し続けていることが主因とされています。

資源が少ない~慢性的経常赤字

トルコは資源に乏しいため、原油などのエネルギーは輸入に頼っています。また、材料や中間財を輸入して加工・輸出する貿易構造であるため貿易収支の改善が進みにくいという問題を抱えており、トルコは長く経常赤字を抱えています。この経常赤字を埋めるために高い金利で海外からの投資を呼び込む必要があるのです。

原油価格が重要

資源のないトルコは原油を輸入に頼っているため、原油価格の高騰は赤字の拡大につながります。したがって、原油価格が下がればトルコの赤字縮小につながり、インフレ率の低下につながります。

2018年10月に前年比25%を超えていたトルコのインフレ率が2019年8月には約15%にまで低下してきた背景として、原油価格の下落もその一要因であると思われます。

政治リスク~強権統治のエルドアン大統領

2003年にトルコの首相に就任したエルドアン大統領は国営企業の民営化やインフラ開発、積極的な外資の導入などで経済活動の活性化を促してきましたが、近年では政府に批判的なメディア規制など強権的姿勢を強めています。

2016年、軍の一部による大規模なクーデターが画策されましたが失敗に終わりました。これを受け、エルドアン大統領は2017年に憲法改正案を国民投票で可決させ、2018年6月大統領選挙で再選を果たしました。それにより、最長で2029年まで大統領の座に君臨することが可能となっています。

強権をふるうエルドアン大統領はロシアに接近、反米姿勢をあらわにし始めたことが、トルコからの資金流出をもたらしているとの指摘もあります。

政策金利は1桁に?中央銀行の独立性喪失に懸念

2019年7月25日、トルコ中央銀行はおよそ3年ぶりに主要政策金利を4.25ポイント引き下げ、19.75%とすることを発表しました。

足元でインフレが和らいだことなどが背景ですが、市場予想を超える4.25ポイントもの利下げにはエルドアン大統領政権からの圧力があったと指摘されています。会合直前、7月6日に「6会合連続で金利を据え置いていた」チェティンカヤ中央銀行総裁が任期途中で更迭されているのです。

新総裁となったウイサル氏が一気に4.25ポイントもの利下げに踏み切ったわけですが、9月12日にも3.25ポイントの利下げを実施。2会合連続で利下げが実施され、主要政策金利は16.5%にまで引き下げられました。

エルドアン大統領は9月8日「政策金利を1桁まで引き下げるだろう」と発言しており、利下げサイクルは始まったばかりと言えそうです。また、中央銀行の独立性の喪失が懸念されており、トルコへの投資が鈍るリスクは高まっていると言えそうです。

スワップ狙いはリスク大!?

これまで、高金利通貨として海外投資家らの人気を集めてきたトルコリラ。政情不安などでトルコリラが下落しても、スワップ金利収入によってカバーされると考える投資家らがトルコリラに資金を振り向けてきました。

しかし、中央銀行の独立性の喪失、大統領による利下げ宣言、同盟国である米国とロシアを天秤にかける政治スタンスの危うさなどがリスクと捉えられ、トルコからの資金流出を促す流れが継続するものと考えられます。