オーストラリアドル(以下、豪ドル)が高金利通貨として、魅力があったのは一昔前のこと。2008年には7.25%もあったオーストラリアの政策金利は現在1%まで引き下げられています。2019年内にさらに利下げすることが示唆されており、スワップ(金利差収入)が魅力の通貨ではなくなっています。

今回は、豪ドルの特徴と価格変動要因について掘り下げます。

28年連続して経済成長、資源国通貨の代表格

オーストラリアは1991/92年度から28年連続して経済成長を続けています。四半期ベースでは2008年のリーマンショックに端を発する金融危機や2011年のクイーンズランド州洪水被害の影響でマイナス成長となったこともありますが、年度ベースでは一貫してプラス成長を続けています。

足下では2018年後半から成長ペースが減速していますが、2019年5月の総選挙で勝利した現政権は、10年間で1,580億豪ドルもの所得減税や法人減税、新たなインフラ投資などを打ち出しており、現時点ではリセッションへの警戒は大きくありません

世界屈指の資源国であるオーストラリアからは、金や石炭、鉄鉱石などが生産され世界に輸出されています。オーストラリアの輸出のうち15.2%程度が鉄鉱石、次いで石炭が15%など、5割以上を鉱物資源が占め、豪ドルは資源国通貨の代表格としても知られています。

金生産は中国に次いで世界第2位。また銅の生産量は世界第6位ですが(1位はチリ)埋蔵量ではオーストラリアはチリに次いで世界第2位であり、鉄鉱石や石炭、金、銅価格などが豪州経済に及ぼす影響は甚大です。

そしてそのオーストラリアの貿易総額7,986億豪ドルのうち、中国との貿易が24.4%とトップ。オーストラリアの輸出相手国として中国は30.6%ものシェアを占めているため、中国の景気動向は豪ドルの先行きにも大きく影響します。

米中貿易交渉による中国経済の先行き懸念は豪ドルの懸念材料に直結します。中国を始め世界の貿易が鈍ることで、資源価格が下落すれば、これも豪州経済を圧迫する材料となるため、より緩和的な金融政策期待が高まることで豪ドル下落に拍車がかかることになります。

※データは2017/18年、財・サービス 出典:豪外務貿易省統計

政策金利の動向と経済指標

2008年の3月から9月にかけては7.25%という高い政策金利であることが投資家にとっての魅力でしたが、2019年7月2日のRBA豪州準備銀行の政策会合にて0.25%引き下げられ、現在の政策金利は1%です(2会合連続での利下げ)。

年内さらにもう1回の利下げが見込まれており、オーストラリアもゼロ金利時代へ入ることが予想されています。

豪州準備銀行の最も重要な政策目標は物価の安定と雇用です。

金融政策を決定するうえで重視されるのがCPI(消費者物価指数)と雇用統計ですが、オーストラリアの消費者物価指数は3ヶ月に1度しか公表されません。雇用統計は月次で発表されますが、特に失業率と政策金利に相関関係が強いとみられています。

中国のプロキシー通貨

為替トレーダーの間では、豪ドルが「中国のプロキシー通貨」として扱われることがあります。プロキシーとは「代替の」という意味です。例えば中国にリスクが高まり、中国絡みの資産が大きく下がると予想される際、代わりに豪ドルを売るということです。

オーストラリア経済は中国の成長にサポートされてきた側面が大きく、中国が成長する過程では、中国と関係が深い豪ドルを保有することで、中国人民元に投資しているのと同様の利益を期待できるとされてきました。

また、中国の株式市場は規制が多いだけでなく、取引のルールも中国本位で頻繁に変わるリスクをはらんでいます。これは人民元取引も同様で、投資家らは、規制やルールに縛られる流動性の少ない中国の株や通貨を直接取引するよりも、為替市場での流動性が高い豪ドルを中国資産の代わりにトレードするのです。中国に問題が出てくれば豪ドル売りが加速することを覚えておくといいでしょう。