今年の猫の日(2月22日)にわれわれは、重要なメッセージを発信している。ひとつは松本大が「連銀の仕事」というタイトルのつぶやきで、「アメリカの中央銀行=連銀(FRB)の仕事は変質したのではないか」と述べた。「GFC(リーマンショック)以来、各国中央銀行が大規模な金融緩和を行った結果、資本市場は巨大化し、この巨大化した資本市場の上下動から発する資産効果、或いは逆資産効果が、中央銀行による金利調節よりも大きな役割を果たすようになってしまったのではないか?マーケットからの経済に対するフィードバックが、何よりも大きくなってしまったのではないか?そして連銀の仕事は、金利調節をすることではなく、このマーケットと云うものを安定的にコントロールすることになってしまった。」

これは重要な示唆に富む。松本がこれを書いたのは2月で、その時点ではFedの「利上げ停止」までが市場のコンセンサスだが、そこから4ヶ月あまりで市場は7月の利下げを100%織り込み、年内にさらに2回、計3回以上の利下げを期待するに至っている。おかげで市場は安定するどころかラリーとなっている。ダウは6月に7.1%上昇し、6月としては1938年以来の上昇率となった。S&P500はきのう再び史上最高値を更新した。

もうひとつは、僕が同日に書いたレポート、「『悪い』は現在の状況 『良くなっている』は変化の方向」である。100万部を超えるベストセラー、「FACTFULLNESS」の言葉を借りて、「悪い」と「良くなっている」は両立する、ということを強調した。「悪い」は現在の状況であり、「良くなっている」は変化の方向というのが重要なところだ。なぜなら株価は「水準」や「状態」ではなく、その「水準」や「状態」の「変化の方向性」に反応するからだ。

その伝で言えば、大分良い変化が出てきた。現在の状況は悪いが、悪い中にも良くなっているものが散見される。

1.日銀短観:大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は前回3月調査から5ポイント悪化し、プラス7となった。2四半期連続の悪化である。しかし、今回の悪化幅は前回調査の7ポイントから縮小した。水準も前回の景気悪化局面の2016年9月調査(プラス6)を上回る。そして先行きの見通しは横ばいの7である。無論、調査期間中には米中首脳会談の結果は明らかになっていない。それにもかかわらず、先行きの悪化を見込んでいないのだ。これは慎重な企業の回答としてはむしろ強気とも言える。そして大企業非製造業は2四半期ぶりに改善した。内需の好調ぶりを示すもので、国内景気が悪化一辺倒ではないということだろう。

2.鉱工業生産:5月の鉱工業生産指数は105.2となり、前月比2.3%上昇と大幅に伸びた。上昇は2カ月連続。これで景気動向指数も上伸することはほぼ確実である。今日の日経「スクランブル」も取り上げているが、電子部品・デバイスの在庫調整の進捗も確認された。縦軸に在庫、横軸に出荷のそれぞれ前年比をとった在庫循環図をみると、在庫調整の終盤に向かっているのが鮮明である。こうした状況でファーウェイ向け部品輸出の一部解禁という話が出たのも良いタイミングであった。

その他にも工作機械受注やOECD景気先行など前年同月比でみれば底打ちの兆しが見える。昨日の米ISM製造業景況感指数は、低下したものの市場予想を上回った。前の週に発表されたシカゴPMIが50割れとなったことに比べて、明らかに粘り腰である。ISMは昨年夏にピークアウトして景況感の悪化が続いてきたが、これだけ米中貿易戦争が激化すれば製造業の景況感が悪くならないほうが不思議だ。だがそれは「景気が悪い」ということではなく、あまりに好調だったところからトーンダウンしただけで、実際に「好不況」の境目近辺までくれば、指数の低下も限られてくるというふうに解釈できるだろう。