中国の熾烈な受験競争、全国統一大学入試「高考」

本コラムでもこれまで何度か報告している通り、中国の受験競争は大変厳しいものがあります。

一人っ子政策の効果(?)で18歳人口は増えてはいないのですが、大学進学率が上昇していることと、最近の経済成長の鈍化で大学卒業後の就職も競争が激化し、有力大学への人気集中が進んでいることが、競争を熾烈なものにしています。

今月の初めには、今年の全国統一大学入試「高考」が行われました。今後、受験生は高考の成績をもとに、志望大学を決め、出願することになります。

高考の結果が受験生の志望大学決めを大きく左右しかねないだけに、受験勉強も大変です。都市部の中学や高校の多くは、受験科目に特化した授業を行い、早朝から、あるいは深夜に及ぶ補習を行うことが一般的です。そのため、日本では盛んな部活動なども皆無です。

競争があまりに激しいため、富裕層では海外留学の人気が高まっており、それも大学よりも前の中学校、高校段階で、あるいは小学校から留学することが増えつつあります。また、スポーツや芸術の分野で「一芸を伸ばす」方向を目指す家庭も多く、ピアノやヴァイオリンなど音楽教育などは大変な人気となっています。

芸術分野の単位取得で大学生が中国文化に触れる機会に

受験科目へのあまりの偏重は、豊かな心と人間性を育むことを妨げるとして批判も多いのですが、現に競争が存在する以上、受験生も、親も、そして学校も自ら進んで競争を避けることは困難です。

そこでせめてでも、という訳ではないのでしょうが、政府の教育部(日本の文部科学省に相当)は、このほど大学生を対象に、「卒業までに全員が芸術分野の単位2単位を取得することを義務付ける」という方針を発表しました。

各大学は自校で、あるいは外部の教育機関と提携して、学生向けに授業を行う体制を整備することが求められます。特に、中国の伝統芸術である書画については、各大学が専門の講師を配置し、学生に中国文化を理解させるよう求められています。

北京の有力大学で、特に人文科学分野の研究で有名な北京師範大学は、芸術専攻の学生には399科目、また芸術以外を専攻する学生には40科目を用意しています。授業内容は音楽、舞踊、絵画、映画、デジタルメディア等多岐に渡り、学生は専門科目の勉強のプレッシャーから解放され、また美的感覚の醸成にもつながるとして高い人気を得ているそうです。

北京師範大学は、授業を他の大学の学生にも開放しており、一部はオンラインでも受講できます。
演劇や舞踊を鑑賞し、さらに自ら演じる授業等もあるそうで、工夫がうかがえます。

思想教育的な側面も見受けられる政府の改革方針

教育部は、各大学に対しガイドラインを提示し、2022年までに教員と設備を整え、教育成果の向上を図るよう求めています。さらに、2035年までには、芸術分野の授業を通じて、政府が目指す「中国独自の社会主義」を教育するシステムを確立するとして、思想教育的な側面も見受けられます。政府の目指す方向性が、果たして学生にどのように受け入れられて行くのか、注目してみたく思います。

大学はもちろん各学生が専門分野を学ぶ場ですが、専門以外の一般教養的な内容の授業も、長い人生のためには大いに役立つものと思われます。

私も、今振り返りますと、日本文学など、強く印象に残っている授業がいくつかあります。教育部が進める改革の方向性、目的には若干「?」な部分もありますが、学生の将来に活かされるものとなるよう、願いたいと思います。