このレポートのまとめ
- ホルムズ海峡で緊張が高まっている
- 安倍首相訪問中の攻撃
- 経済制裁でイランは疲弊
- イランは核合意を破ると宣言
- 米軍無人偵察機の撃墜
- バスラの米企業施設にもミサイル
- 大統領選挙を前にトランプは戦争を回避したい
- 開戦ならポートフォリオのリスクを下げること
ホルムズ海峡
このところホルムズ海峡で緊張が高まっています。ホルムズ海峡はアラビア湾(=イランでは同じ湾をペルシャ湾と呼びます)とオマーン湾の間にある海峡です。
海峡の幅は34キロなのですがスーパータンカーが通過できる深さのある部分は3キロの幅しかありません。
世界のタンカーによる石油の輸出の実に40%がこの海峡を通って消費地に出荷されます。日本が輸入する原油の約8割はここを通ります。
安倍首相がイラン訪問中に攻撃
6月13日、安倍首相が平和の話し合いのためイランのロウハニ大統領ならびに最高指導者ハメネイ師を訪れたまさしくそのタイミングで、日本のタンカーを含む2隻のタンカーが攻撃を受けました。
イランはこの攻撃を非難し攻撃への関与を否定していますが、攻撃とその後のイランによる救出劇は「自作自演だ」という指摘が出ています。
実はちょうど1ヶ月前にもイランはタンカーを攻撃しており、今回は2回目の出来事です。
疲弊するイラン経済
イランがこんな茶番劇を演ずる背景には同国の経済はアメリカをはじめとする各国からの経済制裁の影響で、今かなり危機的な状況になっていることが指摘できます。
4月のイランのインフレ率は+51.4%でした。去年まで+10%前後のインフレ率だったことを考えるとこれはかなり激しいです。
イランリアルの実勢レートは1ドル=13万リアルまで暴落しています。ちなみに2018年の3月頃は1ドル=5万リアルでした。
イランの国庫の収入で一番重要なのは石油の輸出代金です。しかし経済制裁でイラン産原油を買う国が減ったので収入が激減しています。
国際通貨基金(IMF)は2019年のイランのGDPは-6%になると予想しています。ちなみに去年は-3.9%でした。
つまり民心は為政者から離れつつあるため、政府は急いで人気を回復しなくてはなりません。そのためには外敵の脅威をアピールするのが一番なのです。
6ヶ国核合意が反故にされる?
イランは先週、「2015年に合意された濃縮ウラン備蓄上限をあと10日で超える」と発表しました。
2015年のいわゆる6ヶ国合意では:
1.イランは西部のアラクに建設している重水炉の炉心を撤去する
2.純度3.67%以上のウランの濃縮を止める
3.国際原子力機関(IAEA)からの査察を受け入れる
4.遠心分離機を取り外す
などの条件に応じるはずでした。欧州連合はイランに対し、この合意を放棄しないよう必死に説得してきました。
しかし、今回の発表で少なくともウランの濃縮を止めるという条件をイランが破るつもりでいることは明らかになりました。これもイランのアメリカに対するあからさまな挑戦です。
アメリカは、経済制裁でイランを締め付ければイランが交渉のテーブルに着くだろうと予想していました。しかし、イランはむしろアメリカから攻撃されることを望んでいるのです。
そこには「アメリカは今、米中貿易戦争で忙しいので、イランを攻撃してもそれは限定的な威嚇にとどまるだろう」という読みがあります。
米軍無人偵察機の撃墜
6月20日にはイランがオマーン湾でアメリカの無人偵察機(ドローン)を撃墜しました。
場所は先日、安倍首相がイランを訪れているときタンカー攻撃があったのと同じ海域です。
今回撃ち落とされたのはノースロップ・グラマン(ティッカーシンボル:NOC)製のRQ-4Aグローバルホークです。
同機は全長13.5メートル、全幅35.4メートルという大型の無人偵察機であり、オモチャのようなドローンを撃墜したのとはわけが違います。
イラン側は「イランの領空を侵犯した」と主張していますが、アメリカ側はしていないと主張しています。
バスラのエクソン・モービル施設にも攻撃
先週はこのほか、イラクのバスラにあるエクソン・モービル(ティッカーシンボル:XOM)の施設にもミサイルが撃ち込まれました。
バスラはイラクの最南端、アラビア湾に面する地域で東側をイランのアバダン、西南側をクウェートに挟まれた地形になっています。アラビア湾を通じて石油を出荷するアルバスラ石油ターミナル(ABOT)などの重要施設がある場所です。
同地域にはルマイラ油田と呼ばれる世界で3番目に大きな油田があります。ビーピー(ティッカーシンボル:BP)が生産を下請けしています。同地域はイラクの原油生産の3分の2を占めています。
バスラでは昔からイラクから独立したいという運動が起こってきました。その理由は、同地域はシーア派の住む地域であり、スンニ派が多数派となっている北部とは宗派が違うからです。
ルマイラ油田の莫大な収入のほとんどはバグダッドのイラク政府に召し上げられ、地元には余りお金が落ちてないというのが彼らの不満です。
4月1日に、バスラの市議会が満場一致でイラクから独立したいという決議をしました。イラクの憲法ではそのような決議は合法です。
また議会が憲法の規定に従うという決議をした場合、直接市民にレファレンダムで独立の是非を問うことになります。
ちょうどイラク北部のクルド人居住地区が自治を獲得したように、バスラも独立する可能性があるわけです。
しかしイラク政府としては、ルマイラ油田からの収入が入って来なくなると大打撃を受けます。したがってこの独立は阻止される可能性が高いです。
バスラにはムクタダ・アル・サドル師のようなシーア派のリーダーがいて、イラク政府に対する反政府運動を開始する可能性があります。ちなみにサドル師は反米で、彼は密かにイランと組む可能性もあります。
イラクは近年急激に原油生産を伸ばしてきた国のひとつであり、現在、石油輸出国機構(OPEC)で2番目に大きな輸出国となっています。
大統領選挙を前にトランプは衝突を回避したい
トランプ大統領は2020年の大統領選挙を前に、有権者にウケが悪い戦争を始めることには躊躇しています。したがって全面的な戦争に発展する可能性は低いでしょう。
当面、アメリカは複数国から構成される国際エスコート隊により、ホルムズ海峡の航行の安全を確保するという消極的な対応をすると思われます。
投資戦略
上に見てきたように、イランは次々にアメリカを挑発する行動に出ています。しかしアメリカはその誘いに乗っていません。なぜならトランプ大統領は戦争が嫌いだからです。
しかし、今後もし現地で安全の確保にあたっている米兵に死傷者が出たら、アメリカ国内の世論は黙ってないでしょう。つまりちょっとしたことから、小競り合いが全面的な戦争になる可能性はゼロではないのです。
現時点では有事に備えて特別なことをする必要はないと思われます。
しかしいよいよ雲行きがおかしくなってきた場合、ポートフォリオのキャッシュ比率を少し高めることをお勧めします。
また石油、ゴールドに関連する銘柄を少し組み入れるのも良い手かもしれません。
銘柄としてはシェブロン(ティッカーシンボル:CVX)、ニューモント・ゴールドコープ(ティッカーシンボル:NEM)などが挙げられます。
さらに武力衝突のシナリオでは防衛関連株にも注目が集まるはずです。
・ロッキード・マーチン(ティッカーシンボル:LMT)
・ハンティントン・インガルス・インダストリーズ(ティッカーシンボル:HII)
・ゼネラル・ダイナミックス(ティッカーシンボル:GD)
などが関連銘柄になります。