SAGとさくらREITそれぞれの主張と反論

前回のコラムに引き続き、今回もスターアジア不動産投資法人(証券コード3468、以下スターアジアREIT)のスポンサーであるスターアジアグループ(以下、SAG)のライオンパートナーズ合同会社(以下、ライオンパートナーズ)が、5月10日にさくら総合リート投資法人(証券コード3473、以下さくらREIT)の投資主に向けて、スターアジアREITとの合併に「向けた」提案を行ったことについて記載する。

SAG側がさくらREITの投資主に対し、合併に向けた提案に対し賛同する様々なメリットを記載(※1)している。その中で時価総額や資産規模の拡大、それに伴うポートフォリオ分散効果などはスターアジアREITとの合併でなくても実現可能なものである。

従って、最も投資家に分かりやすい点は、合併後のさくらREIT投資主の分配金が短期的に100円程度増加することを目標としているというものであろう。この分配金増加は、さくらREITの資産運用報酬が高いためスターアジアREITの運用報酬水準に合わせることを中心として実現するとしている。

またSAG側は、さくらREITの運用手法を問題視すると共にスターアジアREITの運用にスポンサーとして積極的に関与し資産規模の拡大や売却益を投資家に還元してきた実績を示している。

ただし、この点に関してさくらREIT側は、さくらREITの保有物件は全て含み益があるのに対し、スターアジアREITのポートフォリオの7物件に含み損失がある点やスターアジアREIT が3回の増資を実施した期間において1口当たりNAV(※2)の成長率はさくらREITの方が高い(※3)としている。

SAG側に課された重い責任

前述の通り、SAG側が示しているさくらREITの投資家にとって分かりやすいメリットは1口当たり分配金が100円程度増えるとしていることである。しかし、合併比率が提案されていない以上、分配金が実際に増加する合併となるかは不透明である。

SAG側の資料でも「2019年4月末日の投資口価格の水準を前提として合併した場合」と注記で前提条件を置いている。合併比率は投資口価格の影響を受けるが、それ以外の不動産評価や収益の先行き見通しなどでも変化する。

本稿執筆時点(6月7日)では、SAG側が開催を要求している執行役員や運用会社の変更を内容とした投資主総会が開催される状況になるかは判然としない。SAG側が関東財務局に投資主総会招集の許可申立てを行っている状態だ。

ただしSAG側の今回の提案は、合併を成立させる必要があるという点でSAG側は重い責任を負ったと考えられる。事前の協議すらない今回の合併提案に伴い、さくらREIT側が買収防衛を行うための弁護士費用や仮に開催されたとすれば、2回に及ぶ投資主総会の開催費用がさくらREITには発生することになる。

スターアジアREITの運用を行っているSAG側は、費用の増加がそのまま分配金の減少要因になることは充分把握しているはずだ。一般企業では、敵対的買収の提案を受けてそれを退けるために費用が発生しても配当性向を変更することで配当金は維持できる。この点でJ-REITにおいては、一般企業の敵対的買収とは大きく異なる側面が多い。

仮に合併提案が否決された場合は、SAG側はさくらREITの分配金を一時的に減少させただけではなく、成算なき合併提案を行ったとしてスターアジアREITの運用にも疑問符が付く可能性もあると考えられる。

 

(※1)スターアジア不動産投資法人による5月10日付「本日付公表の適時開示に関する補足説明資料1 ~スターアジアグループからさくら総合リート投資法人の投資主の皆様に向けた提案資料~」

(※2)Net Asset Valueの略。端的には不動産の含み損益を加味した1口当たり純資産額を示す。J-REITでは1口当たりNAVの成長を目指す運用方針を持つ銘柄が大半を占める

(※3)さくら総合リート投資法人による5月23日付「スターアジアグループへの反論」