初めての「敵対的」買収提案

スターアジア不動産投資法人(証券コード3468、以下スターアジアREIT)のスポンサーであるスターアジアグループ(以下、SAG)のライオンパートナーズ合同会社(以下、ライオンパートナーズ)は、5月10日にさくら総合リート投資法人(証券コード3473、以下さくらREIT)の投資主に向けて、スターアジアREITとの合併に「向けた」提案を行ったことを公表した。

この提案は2段階に及ぶ。第1段階は、さくらREITの現在の執行役員と資産運用会社を解任し、SAG側が選任する執行役員の就任と、スターアジアREITの運用会社をさくらREITの運用会社とすることを内容とする投資主総会の開催を求めるものだ。ライオンパートナーズはさくらREITの投資口3%以上を6ヶ月以上保有しているため、投資主総会の招集権限を有している。

第2段階は、上記第1段階の投資主総会でSAG側の提案が承認された場合、合併比率などの詳細な合併条件を協議した上で合併の承認を求める投資主総会を開催するとしている。第1段階は、投信法上の重要事項に該当しないため過半数の賛成で成立し、第2段階は3分の2以上の賛成が必要な決議となる。

このようなSAG側の提案に対し、後述するようにさくらREIT側は反対の旗幟を鮮明にしている。J-REIT市場ではこれまで14件の合併が成立しているが、両投資法人側が事前に合意したものであった。従って、さくらREIT側から見ればJ-REIT市場では初めての敵対的買収となっている。

なお、さくらREITのスポンサーであるガリレオグループと日本管財は、さくらREITの直近期末(2018年12月期)時点で投資口をそれぞれ2.61%保有している。そのため、スポンサー側でも3%を超える保有比率になることからSAG側の提案とは相反する提案を投資主に示すものと考えられる。

従って第1段階の投資主総会では「みなし賛成」(※1)が適用されず、投資家の明確な意思表示がSAG側の買収提案を左右するものとなりそうだ。

さらにさくらREITの投資口保有比率は、個人投資家比率が最も高く2018年12月期時点で53.5%(図表1)を占めている。人数では17,553名の個人投資家の判断が合併の成否に大きく影響することになりそうだ。

【図表1】さくら総合リート投資法人の投資主体別投資口保有比率
※2018年12月期時点 出所:さくら総合リート投資法人の公表資料を基にアイビー総研作成

合併比率の提示なき合併提案

SAG側がさくらREITに対し合併を提案している理由は、SAG側から見てさくらREITの運用状況は投資主利益を毀損している状況にあるため(※2)としている。このような状況を鑑みSAG側は、この提案は「投資主の、投資主による、投資主のための合併」であると主張している。

【図表2】合併提案公表後のさくら総合リート(3473)とスターアジア不動産(3468)の価格動向
※5月10日終値=100
出所:アイビー総研作成

一方で、さくらREIT側は、SAG側の提案に対して、さくらREITの「投資主価値が毀損する脅威に晒されている(※3)」とし、本合併の提案は「スターアジアグループの、スターアジアグループによる、スターアジアグループのための合併(※3)」として反対意見を示している。

さくらREIT側は、SAG側が合併を提案しているにもかかわらず、前述の通り第1段階の投資主総会では投資主の過半数の賛成で運用体制を変更することの悪影響を指摘している。運用体制がSAG側になることによって、さくらREITの投資主にとって不利な条件で第2段階の合併が提示される可能性もあるためだ。

SAG側からは、現時点ではさくらREIT側との合意がない合併提案であるため、さくらREITの資産査定を行えない状況であり合併比率が提示できないと考えられる。冒頭に、合併に「向けた」提案と筆者が括弧を付けた理由もこの点にある。

現時点では合併提案とはなっていないためだ。しかし、さくらREITの投資主は、合併比率の提示がない状態で合併に向けた運用体制変更への賛否を求められる状況になっていると言えるだろう。

SAG側の提案は、図表2の通り価格動向を見る限り投資家に好感されているようだ。ただし、SAG側とさくらREIT側の主張には異なる点が多いため、次回連載では対立点について記載したいと考えている。

 

(※1)投信法第93条1項では、「投資法人は、規約によって、投資主が投資主総会に出席せず、かつ、議決権を行使しないときは、当該投資主はその投資主総会に提出された議案(複数の議案が提出された場合において、これらのうちに相反する趣旨の議案があるときは、当該議案のいずれをも除く。)について賛成するものとみなす旨を定めることができる」としている。

(※2)スターアジア不動産投資法人による5月10日付「本日付公表の適時開示に関する補足説明資料1 ~スターアジアグループからさくら総合リート投資法人の投資主の皆様に向けた提案資料」

(※3)さくら総合リート投資法人による5月17日付「さくら総合リート投資法人の投資主の皆様へ スターアジアグループからの提案に対する見解」及び「少数投資主による臨時投資主総会の招集請求等に関する本投資法人の意見」