ピアノ「スタインウェイ」が中国で急速に売上を伸ばす

世界を代表するピアノのブランドと言えば、「スタインウェイ」が挙げられます。創業者はドイツ人で、ドイツでピアノの製作に従事していましたが、米国への移住後に起業しました。その後、スタインウェイは1世紀半の間に、コンサート用のフルサイズのグランドピアノでは圧倒的な地位を築くに至りました。

ヨーロッパにも有名なメーカーが複数ありますが、それらが伝統的な設計と製法を維持していたのに対し、スタインウェイは早くから大型のコンサートホールでの使用を念頭に、音響工学を駆使した力強い響きを特徴としたピアノを製作し、瞬く間に高級品の市場で地位を確立しました。

同社製ピアノの愛用者には、リスト、グリーグ、ワーグナーやラフマニノフなどの大作曲家から、今や中国を代表するスターとなったラン・ランなど、錚々たる顔ぶれが並びます。

また、クラシック音楽だけでなく、ジャズやポピュラー音楽など幅広いジャンルで使われており、ビル・エヴァンスやビリー・ジョエルが使用したことでも知られています。

同社のピアノは、最高級品では価格が2,000万円を超えますので、プロの演奏家、コンサートホールや音楽大学が主な購入者となりますが、サブブランドではより安価な製品も提供しており、それらは個人を含む、より幅広い層が購入しています。

近年、中国でピアノを習う子どもたちが増えていることが追い風となり、同社は中国での売上を急速に伸ばしているそうです。

同社のCFOは、「中国では3,000万人から4,000万人の子どもがピアノを習っている一方、その他の国を合計しても、ピアノを習う子どもはせいぜい1,000万人に留まる」と述べ、中国市場の将来性に期待を示しています。

新品のピアノの市場規模は、中国が年間40万台、米国が同3万台とのことですので、同社が中国市場を重視するのも当然と言えます。

もちろん、中国で販売される製品は、まだ安価なものが多いのですが、それでも、同社の中国での売上比率は昨年20%に達しており、10年後には50%を占めると予想しています。台数の増加と高額商品の伸びがともに寄与すると見られています。

安いものでも数十万円になりますので、自動車と同じように、販売動向は中国及び世界の経済情勢の影響を受けます。米中間の貿易摩擦などで先行きに不透明感もありますが、同社のCEOは、直近までの状況を見る限り、販売は好調で陰りは見られないとしています。

果たして同社のもくろみ通り、順調に販売を伸ばすことができるか、中国経済の先行きとあわせ、注目されるところです。

子どもの習いごとブーム、中国の消費における力強さ

中国では、経済成長で所得が伸びていることから、英語、音楽や美術、さらにスポーツなど、子どもの習いごとがブームになっています。

加えて、厳しい受験競争があることから、勉強とは別に、芸術やスポーツなど子の「一芸」を伸ばしたいと考える親も多く、熱の入り方も違ったものになります。

ラン・ランを筆頭格に、中国人の若手ピアニストが続々世界にデビューし、活躍していますが、そう遠くない将来、特にクラシック音楽の分野では、中国人の演奏家が世界を席巻することになりそうです。

また、写真などに見る中国の典型的なお金持ちの家は、居間に高価な書画骨董、あるいは翡翠や珊瑚の置物を飾るのがお約束ですが、いずれは、「居間にグランドピアノ」がステータスになるのかもしれません。これも世界第2位の経済大国となった中国の1つの姿と言えそうです。

自動車や宝飾品、ブランド品などの企業も、皆中国の購買力に期待し、各社の成長の原動力にしようともくろんでいます。

中国の消費の力強さを感じさせられるとともに、さて日本企業が遅れを取ることなく商機をつかむことができるか、ちょっと心配にもなってしまう話題でした。