国際社会に広がるサステナビリティの概念
企業による環境や社会への配慮は、これまでは企業利益とは直結しないCSR(Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任))・社会貢献の一環として見なされてきた。しかし、近年では企業利益・企業価値に深く結びつくものとして認識されるようになってきている。
この背景には、2015年にSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))とパリ協定の2つの国際的な枠組みが合意されたことがあり、世界で長期的な持続可能性(サステナビリティ)の重要性が高まってきている。
機関投資家が企業のESG情報を重視
こうしたサステナビリティの概念の広がりを背景に、機関投資家や金融機関は企業の長期的な持続可能性を測る尺度として、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報を重視するようになってきている。その中の代表的な取り組みとして、今後注目すべき機関投資家の動きは以下のとおりだ。
注目点1:TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
1点目は、2015年に金融安定理事会(※1)の下に設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(通称、TCFD)である。
TCFDは、企業に対して気候変動リスク・機会に関する適切な情報開示を推奨するガイドラインを検討するために発足し、世界の金融機関・企業を代表する民間有識者32名のメンバーからなる。2017年6月には最終報告書としてガイドラインが公表され、わずか1年半で約600の機関・企業らからの賛同を得ている。
このTCFDに関する今後の注目点は、2019年6月に予定されているG20大阪サミットである。金融安定理事会は、2018年末にG20首脳に対して、多くの企業や投資家・金融機関がTCFD提言を支持していることを報告した。
そして、2019年6月の大阪サミットで、その詳細な導入状況をまとめた正式レポートを報告すると表明している。TCFDの勢力が増すほど、企業に対する気候関連情報の開示圧力は大きくなるものといえる。
注目点2:Climate Action 100+
2点目は、Climate Action 100+と呼ばれる機関投資家による国際イニシアチブである。Climate Action 100+は、企業に対して気候変動への対策を促すことを目的に結成され、約300の機関投資家で構成されている。
2017年12月には、二酸化炭素排出量の多い世界の企業100社を取り上げ、経営へ働きかけるエンゲージメント活動を行っている。具体的には、電力・エネルギー・航空・鉄鋼・化学・自動車関連の企業の多くが対象となっている。
このClimate Action 100+に関する今後の注目点は、影響力の拡大である。Climate Action 100+の加盟機関は発足当初225だったが、わずか約1年で323まで増加している。2018年10月に、世界最大級の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が加盟したことも影響力が拡大する要因となろう。
さらに、Climate Action 100+は、2018年6月に新たに61社を追加対象とすることを表明しており、今後も対象企業が広がっていく可能性は高いとみる。
企業の戦略にも変化の兆し
こうした機関投資家による主体的な活動を背景に、一部の企業では既に対応策を打ち出し始めている。
代表的な先進事例として挙げられるのは、世界の大手エネルギー資源会社であるシェルやBHPビリトンである。彼らは2℃シナリオ(産業革命前と比較して世界の平均気温上昇を 2℃未満にするシナリオ)を含む複数の将来シナリオを作成し、各シナリオが事業活動に与える影響を定量的に分析して公表している。
さらに、TCFD提言の推奨開示項目に沿った情報開示にも取り組み始めている。今後は、同様の対応がより多くの企業に求められていくことになるだろう。
(※1)世界の主要25カ国の中央銀行総裁、金融規制当局、財務省などが参加する国際機関
コラム執筆:浦野 愛理/丸紅株式会社 丸紅経済研究所