欧州中央銀行(ECB)は7日の理事会で、2019年のユーロ圏の経済成長率見通しを引き下げ、年内の利上げを断念した。世界景気減速の懸念が改めて高まり、米国ではダウ平均が3週ぶりの安値まで売られるなど欧米市場が全面安。これを受けて日本株も大幅続落で始まった。もうこの時点で、僕は嘆息していた。何度も見た光景だ。東京市場は何も考えていないひとたちの集まりだから、何も考えない機械(プログラムされているだけで考えない)と、米国雇用統計と3月決算を控えて動けない本邦機関投資家の足元を見透かした短期の投機筋の売りで一方的に下げが拡大していく。

追い打ちをかけたのが中国の貿易統計だ。2月の貿易統計で輸出額(米ドル建て)が前年同月比20%のマイナスと大幅に減少した。中国の景気減速を警戒した海外投資家などの売りがかさんだとメディアの市況解説は報じた。

また嘆息。
2月の貿易統計で輸出額が前年同月比20%のマイナス。So what? (それが、何か?)「中国の」、「2月の貿易量」が、大幅に減ると景気減速か?春節の影響であることぐらい小学生でもわかる。陰暦で巡る春節は太陽暦では毎年異なり、この時期の中国の統計は季節調整できない(中国の統計はこの時期に限らず季節調整されないが)。

それを「前年比、大幅減」と報じる愚かさ。それを真に受けて株を売る愚かさ。この時期の中国の貿易量は春節の影響で毎年低下する、しかも劇的に減少するのである。下記グラフ参照。

中国の輸出額(ドルベース)
出所:Bloomberg

ECBは昨年12月時点に1.7%を見込んでいた実質GDP成長率の見通しを1.1%と大幅に引き下げた。潜在成長率も下回る水準だ。これで「世界景気減速懸念」と一斉に報じられたが、やはりSo what?ではないか。完全に後追いだからだ。ドラギ総裁自身が認めるとおり市場が先に動いて、ECBのスタッフ見通しがそれを追認した格好だ。もっと言えば、欧州委員会はちょうど1ヶ月前に、今年の域内経済成長率予測を従来予想の1.9%から1.3%に引き下げた。0.6%の下方修正は今回のECBスタッフ見通しの改定幅と同じであり、ECBスタッフは市場と欧州委員会の両方を後追いで見通しを変更したに過ぎない。

中央銀行の調査部門のスタッフといえば、間違いなく優秀なひとたちだ。だが、そういうひとたちの予想が当たるわけではない。我が日銀を見てもわかるだろう。日銀の調査部門のスタッフは我が国が誇る俊英ぞろいである。しかし、展望レポートを出す度に、下方修正に次ぐ下方修正。つまり、彼らの見通しは外れ続けているのである。彼らの予想が当たるなら、ECBはとっくに利上げに踏み切り、日本だってインフレが2%に近づいていただろう。しかし、現実にはそうなっていない。であるなら、ECBスタッフ見通しが(しかも完全に後追いで)引き下げられたくらいで、なぜこれほどマーケットは大騒ぎするのか。理由は簡単、売る口実にしたいからだ。今の市場には2種類の人間しかいない。本当は景気後退などどうでもいいのにネガティブなことを言って、いろいろな恩恵に浴すること(メディアで注目されることもそのひとつ)を目的に騒ぐひとと、天真爛漫過ぎて真面目に心配して狼狽売りをしてしまうひとだ。こうして市場の混乱は大きくなる。

それほど中央銀行のスタッフの優秀さを信じるなら、やはりこの下げは買い場だろう。ECBスタッフ見通しによれば、今年の成長率は1.1%と大幅に下げたが、来年は1.6%とV字回復する予想なのだから。