あたり一面真っ白になるのがお約束だったが
中国の春節(旧正月)に欠かせないものが花火と爆竹です。
大きな音と光に魔除けの効果があるとされ、年配者を中心に「これがないと年越しの気分が出ない」という人も多いようです。
春節(旧暦の1月1日)から15日間が使用できる期間とされ、数年前までは、事務所の周辺でも数日前からフライング気味に音が聞こえ、また最終日の正月15日には、在庫一掃とばかりに大量に打ち鳴らされ、あたり一面真っ白になるのがお約束でした。
大きな道路の反対側の建物が見えなくなるくらいの時もありましたので、どれほどの煙か想像していただけるかと思います。
ところが、近年北京をはじめとする大都市では、特に冬場に酷くなる大気汚染への対策として、暖房用の石炭の使用禁止など、強硬な政策を取っており、その一環として、花火や爆竹の使用についても制限を厳しくしています。
北京の場合、当初は市の中心部での使用禁止とされていたのですが、今年は五環路(環状五号線、東京に例えると環七通りあるいは環八通りに相当します)以内での販売と使用が禁止となりました。
あわせて、違反者に関する通報も奨励され、抜け駆け的な使用が難しくなりました。
その効果はてきめんで、今年はついに事務所周辺でも、また自宅でも全く音を聞きませんでした。数年前とのあまりの対比に、ちょっと拍子抜けしてしまうくらいです。
北京市の花火・爆竹販売数量は昨年比46.7%減に
大気汚染の軽減も顕著となりました。北京では例年年明けの前後、除夕(大晦日)の夜から翌朝が汚染のピークとなるのですが、今年は年明け直後の午前3時から5時の2時間に多少の汚染が見られた程度で、大幅に改善しました。
規制の強化は、北京や上海で先行し、さらに今年は天津、南京など多くの都市でも実施され、汚染の軽減につながったそうです。
使用の制限に加え、北京では販売する店舗も昨年の80から37に減少し、また購入の際には身分証の提示も必要になりました。
その結果、市全体の販売数量は、昨年比46.7%減になったそうです。
愛好家に加え、製造業者、販売業者にも逆風吹き荒ぶといったところでしょうか?
年々「相互監視」が強まる中国社会が色濃く反映
市民の反応は意外にも好意的で、「静かで清々しい正月」を喜ぶ人たちが多かったそうです。
春節には地方出身者の多くが帰省しますので、都会的なライフスタイルを好む北京の人たちは、伝統的な花火と爆竹での賑やかな年越しにはさほどこだわらないということなのでしょう。
私も正月に青空を拝むことができ、また夜安眠できたことはうれしいのですが、ここまで規制が徹底されたことに驚かされるとともに、「違反者に関する通報の奨励」が効果を挙げていることを知り、ちょっと複雑な気分になってしまいます。
暖房用の石炭の使用の規制も同様だったそうですが、郊外の農村地域では暖を取ることができず健康を害する人が続出したとも伝えられています。庶民が犠牲を強いられていることを知るとともに、年々「相互監視」が強まり、息苦しい社会になっているように感じさせられます。
日本のテレビニュースでも伝えられていましたが、中国ではIT大手のアリババグループが運営する「芝麻信用(ゴマ信用)」と呼ばれる個人のスコアリングシステムが急速に普及しています。横断歩道での信号無視や自転車の不適切な駐輪を行うと、監視カメラの顔認証システムで個人が特定され、スコアが引き下げられるそうです。
スコアは日常生活の様々な場面で用いられ、高スコアを持つ人には借入金の金利優遇など、いろいろなメリットがあります。
便利なような、何とも窮屈なような、不思議な気分になります。正直、「外国人で良かった」と思ってしまいます。
春節の風物詩である花火と爆竹にも、現在の中国社会が色濃く反映されているという話題でした。