「早く買った者が勝ち組」

中国の都市部では、住宅価格の動向や住宅に係る政策が極めて重要なものとなっており、市民の関心も高いものがあります。

各地方政府にとっては、開発案件で地元経済が活性化し、また居住人口が増え税収が増えるなどの期待があり、また市民の側は、市場の問題等により金融商品による資産運用が難しい中で、不動産がほぼ唯一の中長期的な資産運用手段になっているという事情があります。

北京の住宅価格も、変動を伴いながらも上昇を続けており、一般市民の手が届く物件が市の中心部からどんどん離れて行く傾向にあります。

「早く買った者が勝ち組」の傾向がますます強まり、また結婚に際し、新郎側(の両親)が住宅を購入することが必要条件になりつつあります。

教育でも家庭の経済力の差による「機会不平等」が生じ始めているのですが、結婚もとなると、ただでさえ若年人口に男女の不均衡(男余り)が生じている中で、人生に希望を持てない人々が続出しかねません。

一方で、住宅が資産運用の重要な手段となっていることから、また物件の供給を左右する土地の所有権が国にあります。市場原理が貫徹されていないことから、価格の暴落等があれば、市民の不満は政府に向きます。政府には価格の急騰も、また急落も許されないというプレッシャーがかかっています。

住宅価格安定化に向け、引き締め策と緩和策を繰り返す

各地方政府は、住宅価格の安定化のために様々な施策を講じています。

特に大都市では、放置するとすぐに価格が急騰する傾向にあるため、居住用以外の(2軒目以降の)物件取得を制限する、短期の売却益に高率の所得税を課す、あるいは物件購入時の最低頭金比率を引き上げる等、引き締め策が種々取られています。

そして、引き締めにより需要が減退すると、今度は緩和を行い市場を刺激するという、まるで振り子のような繰り返しになっています。

南部広東省の深圳市は、IT系企業などの集積が進み、高い成長率を誇るとともに、若年層を中心に人口流入が進み、住宅価格は中国でも1、2を争う高騰を見せてきました。

若年層の不満を顕在化させない政策運営に注目

ところが、このところ米中貿易摩擦の影響などにより、成長に陰りが見られるとのことで、市政府は住宅政策について、今年は緩和方向に舵を切ると見られています。

具体的な内容としては、市の戸籍を有しない者に一定の条件で住宅取得を認めることや、ローンの金利引き下げを認めることなどが噂されています。

不動産サービス会社の幹部は、緩和的な政策により、取り引きが活発化する一方で、物件価格は安定的に推移すると期待しています。

同サービス会社の調査によると、深圳市では、昨年の取り引き面積が前年比0.4%減少し、また平均価格も0.7%低下しました。

これまで大幅な上昇を続けていましたので、風向きが変わったとも見られており、政策緩和については歓迎する声が聞かれます。 

とは言え、物件価格は既に中間層が手の届かない水準に達しているとも言われ、住宅を持つ者と持たざる者との格差が拡大することが懸念されます。

一時に比べると、住宅市場、住宅価格の動向が報じられることが減り、落ち着いたようにも思われるのですが、社会問題としての側面からも、今後も目が離せません。

中国では、経済成長が続き、賃金も上昇傾向にあることから、若者が将来に希望を見出しやすいようにも思えるのですが、こと住宅に関する限り、中高年層との世代間格差も見受けられる状況です。若年層の不満を顕在化させないための政策運営が果たしてできるものか、注目されます。