1.再エネ導入の鍵を握るのは「調整力」

世界の再エネによる総発電容量は、2017年時点で2,195GWまで増加した。10月8日に、IEA(国際エネルギー機関)が公表した「Renewable 2018」によると、次の5年間に増大する消費エネルギーの4割を再エネが占め、2023年には世界の総発電量の3分の1を再エネが占めると予想され、今後も増加が見込まれている。

しかし、太陽光発電や風力発電などの再エネは季節や天候による出力変動が激しいといった欠点もあり、上述の更なる増加を実現するためには、その出力変動を補う需給調整システム、すなわち「調整力」が鍵となるだろう。

2.従来型の調整力は供給側をコントロール

これまでの日本では、再エネの出力変動を補う調整力として、主に火力発電などの発電量の調整でコントロールを行ってきた。火力発電は、燃料の投入量を変化させることで出力をコントロールできる。そのため、電力需要の増加時に再エネの発電量が足りない場合は火力発電の増加分で補い、また電力需要の減少時に発電量が多すぎる場合は火力発電を減少させることで、全体の電力需給をマネジメントしている。

しかし、再エネの出力変動分をCO2排出量の多い火力発電で調整するということは、実質的には再エネ発電は「カーボンフリー」であるとはいえず、CO2削減の観点では望ましい方法とはいえない。そうした中、これから普及が期待される調整力は、デマンドレスポンス(DR)という需給マネジメント方法である。

3.需要側をコントロールする調整力の普及に期待

デマンドレスポンス(DR)は、再エネの出力変動を電力の需要側の調整によりコントロールする方法である。一般的な方法として、過剰な発電量に対して需要量を増やす方法(=上げDR)と、不足している発電量に対して需要量を減らす方法(=下げDR)の2つの方法がある。

需要量を抑える「下げDR」を行う際は、需要家に対して料金優遇などのインセンティブを与えることで一時的に電力消費量を減らしてもらい、電力需給をバランスさせる。一方で、需要量を増やす「上げDR」を行う際は、余剰電力を有効活用するという観点から、本来は発生しないはずであった新たな電力消費を生み出して需給をバランスさせる。具体的には、余剰電力を蓄電池に充電したり、揚水発電のために水をくみ上げる電力として消費したり、水素製造のための電気分解に使用したりする例がある。

【図表1】デマンドレスポンスによる需要制御のイメージ
出所:経済産業省 資源エネルギー庁より丸紅作成

4.調整力の技術革新が再エネ導入を加速させる

さらにデマンドレスポンス(DR)が進化すると、バーチャルパワープラント(VPP)になる。VPPは、DRと同じ考え方に基づいて需要側の調整を行うだけでなく、より広域に複数の発電設備や蓄電設備なども一体的に制御して需給バランスを調整する仕組みである。欧米では既に事業化されているが、日本では国内電力システム改革の一貫としてDRが導入されたばかりで、VPPは実証段階にある。

DRやVPPの普及には、その構成要素となる蓄電池などの技術革新やコスト低下が必要不可欠である。いくら再エネ発電自体のコスト低下が進んでも、その出力変動を調整する技術が高コストのままであれば再エネの大量導入は難しい。そのため、今後いかに早く経済性に見合った調整力を確保できるかが、再エネの導入を一段と加速させるための1つの鍵となるだろう。

 

コラム執筆:浦野 愛理/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

 

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