トルコリラなど新興国通貨安が極まった8月、ドル建てのゴールドも大幅下落となったことは貴金属関係者を驚かせました。ラストリゾートと呼ばれるゴールドは、リスク回避時には資金の受け皿となるとされており、有事には上昇する特徴があるのですが...。

後に確認されたことですが、この時、トルコは自国保有の大量のゴールドを売却していました。トルコは有数のゴールド保有国です。長い歴史の中で繰り返される政情不安、通貨価値の下落で自国通貨への信認が低いことがトルコのゴールド保有率を高めているのですが、この夏のリラ急落の際、トルコはゴールドを売りドルに換金し流動性を確保することで、デフォルトリスクを逃れたのです。

この夏の新興国通貨安、ドル高で国際商品価格は下落を強いられ、ヘッジファンドや機関投資家らのゴールド売りも顕著となっていましたが、8月のトルコリラショック時にはトルコからの売りもゴールドが大きく下落する一因となりました。ゴールドをドルに換えることで難を逃れたのですから、トルコにとっては「有事の金」という金の価値が改めて確認できる一件でした。

この新興国通貨安、米ドル高は今後も続くのでしょうか。

インフレに苦しむトルコですが、9月13日、トルコ中央銀行はエルドアン大統領の圧力に屈することなく6.25%もの利上げを実施したことでトルコリラは下げ止まっています。

9月24日にはポンペオ米国務長官が会見で、週内にトルコ政府関係者と拘束中の米国人牧師について協議を行うとし、牧師が「今月に解放される可能性がある」との見通しを明らかにしています。トルコが抱える問題がこれですべて解決というわけではありませんが、インフレに対処すべく利上げする意思を明確にしたことや、米国との対立について解決に向けての事態の進展が見受けられることから、いったんは下げ止まったように見えます。

トルコリラの下落警戒が後退したことに加えて、8月15日を起点にドルは下落に転じており、独り勝ち状態の上昇が続いた米ドルにも変化の兆しが出てきました。

トランプ大統領は中国とEUは為替を操作していると繰り返し不快感を表しています。8月末、トランプ米大統領は、政権が各国の為替操作の有無をどう決定するか検討していると述べており、10月の為替報告書(※)にも注目が高まっています。米国はこれまでも中国が為替を操作していると繰り返し主張してきましたが、公式には認定していません。トランプ大統領は「われわれはその方式を極めて精力的に検討している」と述べており、これまでとは違う方式での認定の可能性もあることを匂わせています。中間選挙も近づいてきており、米政権がドル高の是正に動く可能性は否定できません。

※米国の財務省が4月と10月の年2回、連邦議会に提出する「米国の主要貿易相手国の外国為替政策に関する報告書」。米国の主要貿易相手国が故意に為替介入などで為替レートを操作して自国通貨安を誘導していないか調査し連邦議会に提出する報告書。為替操作国認定されれば米国から通貨の切り上げを要求される可能性があります。

また前述のドル建てゴールドですが、トルコリラショックで1,200ドル割れまで売り込まれました。先物市場では歴史的に珍しい売り越し状態にまで売りが膨らんでおり、買戻しが入るだけでも大きな上昇となる構造となっています。

トルコからのゴールド現物売りも価格下落に拍車をかけましたが、生産コストライン、投機筋の売りポジションから見ても、これ以上のゴールドの下落は考えにくく、買い戻される余地が大きいことを考えると、ゴールドの上昇、すなわち為替の相関としてはドル安がやってくるのではないかとみることができます。

年末に向けてはドル安となるのではないでしょうか。ただし円安でもありますので、ドル/円相場はあまり動かないでしょう。ユーロ/ドルでのユーロ上昇があるかどうかに注目です。