先週の段階では、「米国株はダウ平均採用のグローバル景気敏感株が大きく下げているだけで市場全体の地合いの悪化はそれほどでもない」と述べたが、ちょっと状況が変わってきた。いちばん深刻なのはダウ平均が200日移動平均を下回ったことだ。昨日は反発してなんとか200日線に絡んでいるが、ここから明確に下放れると一気に悲観論に傾き投げ売りが出てくるので要注意である。米国株市場は世界でもっとも洗練された投資家が集まるもっとも洗練されたマーケットであるはずなのに、意外にシンプルなテクニカル ‐ 移動平均など ‐ が良く効くのが不思議である。

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ダウ平均の下放れは要警戒であるが、先週指摘した通りS&P500はまだしっかりしている。加えて、日経平均も75日線できれいにサポートされている。メインシナリオは、ここで波乱の6月相場を耐え凌いで、7月からのターンアラウンドに期待するというものだ。

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7月が相場の転機となる材料を挙げてみよう。まず日米とも第1四半期の決算発表がある。6月はまるまるトランプ大統領発の貿易摩擦に翻弄された1カ月だったが、7月の決算シーズンが始まれば市場の目が企業業績に戻るだろう。日本企業については、①3月期の本決算発表時のガイダンスが慎重過ぎたこと、②貿易戦争やその他のリスク要因の高まりによる円高懸念、などからアナリストによる業績予想の下方修正が続いていたが、それもようやく底打ち~反転の兆しが見える(グラフ3)。なんだかんだ言っても、ドル円が1ドル110円程度で推移しているわけだから、少なくとも4-6月期の業績には下押し要因になっていない。

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ふたつ目は最近の相場の重石である貿易戦争が少し緩和モードに入る期待があることだ。トランプ米大統領は一昨日、中国企業による米ハイテク技術獲得に対しては中国に特化した制限を課すのでなく、議会で審議中の法案(対米投資審査厳格化法案)で強化される対米外国投資委員会(CFIUS)の審査権限を活用して対応する方針を表明した。議会がCFIUSの権限強化法案を審議してきたのはもちろん中国企業の投資制限をいちばんの念頭に置いてのものであるが、外資全般が対象になるので、直接中国を狙い撃ちにしたものではない。よって(形式的には)米中貿易戦争の激化という枠外のものだ。

この発表を受けて米国株相場は上昇で反応した。事前に報じられていたほど強硬なアプローチではないと受け止めたからだ。しかしその後にクドロー米国家経済会議(NEC)委員長がメディアに対して、大統領が発表した方針は中国に対するスタンスの軟化を示すものではないと説明。中国への強硬なアプローチに変わりはないとの見方から、市場は下げに転じたが、この発言は「強硬姿勢を維持するポーズ」ととらえていいだろう。実際に政権が選んだ選択肢はCFIUSの権限強化という現実路線である。

市場の焦点は7月6日の中国への制裁関税第1弾の発効である。例の500億ドルのうち340億ドル分だ。中国も340億ドル相当の報復措置で対抗する。ここまでは織り込み済みだろう。問題は残りの160億ドルをどうするか。発効時期などの言及があるかどうか注目される。さらに、中国の対抗措置表明に対して振り上げた2発目の「拳」、すなわち10%の追加関税の対象とする2000億ドルの製品の特定をどうするか。トランプ大統領はUSTRに調査するように指示し、7月下旬に意見書提出、公聴会などのプロセスが予定されているが、この2000億ドル分に本気で関税をかけるとは市場は見ていない。500億ドル+2000億ドルでは中国からの輸入額の半分に当たる。対象品目は多岐にわたり、衣類から玩具、文房具など国民生活に身近な製品まで影響が及ぶ(何に関税をかけても国民生活に影響するが、より直接的に「見える」ということだ)。とりあえず月末の公聴会までの間に、中国からの働きかけなどもあり、方向を修正する動きが出てくるのではないか。先般のハーレー・ダビッドソンの国外生産の発表も、トランプ政権には相当ショックを与えているはずである。

3つ目は中国経済が持ち直す期待が台頭することである。最近、中国の景気減速を示す指標が相次ぎ、市場の懸念材料になっていたが、中国政府は対策を講じるだろう。すでに個人所得減税、銀行の預金準備率引き下げ、中小企業向け融資促進といったことが打ち出されている。

そして最後に国内政治要因。7月22日まで延長された国会が閉会すれば、安倍首相は自民党総裁選に出馬表明するだろう。一方、対立候補は国会会期延長という「作戦」で選挙の準備期間短縮を余儀なくさせられている。安倍首相の党内基盤の強さや、最近の世論調査で急回復している支持率などに鑑みれば、対立候補がどう出るか。万が一、早い段階で安倍首相の「無風再選」が濃厚になれば、アベノミクス路線継続(=政治・政策の安定)を好感した(特に外国人による)買いでサマーラリーがスタートする可能性もある。9月ウラジオストックでの「東方経済フォーラム」における日朝首脳会談調整との報道もあるが、拉致被害者問題に関するニュースフローが増えれば、「やはり外交は安倍さん」というムードが高まり、自民党総裁選は消化試合という見方が多くなるだろう。