コンピュータの能力は、人間のプロ棋士と互角の勝負ができるところまで発達している。対局の勝負になると、まだ人間の棋士に分があるようだが、先の手を読む能力では、当然のようにコンピュータには敵わない。

ギリシャ問題の着地点をコンピュータに解読させれば、あっというまに結論に至る。人間にやらせるから、いちいち途中のプロセスでつっかかるのだ。

6月30日のIMFへの返済はできない。しかし、すぐにはデフォルト(債務不履行)の判定にはならないから、これは大きなリスクではない。問題は7月5日の国民投票だ。EU側から要求されている緊縮策を受け入れるか、それともこれ以上の緊縮には耐えられないと言ってNoを突き返すか、状況は予断を許さない。Yesとなった場合、チプラス首相は退陣し、新しい連立を模索、そして再びEUとの交渉テーブルに着く。Noとなった場合は一気にギリシャのユーロ離脱懸念が高まる...とかなんとか、このあたりのシナリオは日経新聞あるいは他のメディアなどで、ごまんと解説が載っているから、それを読んでいただけば、こと足りる。

時間がないひとは、結論をコンピュータに尋ねればよい。途中のどうでもいいプロセスをすっ飛ばして、着地点を示してくれるだろう。それは、どう転んでも、ギリシャにはカネがない、ということであり、そしてカネは天から降ってくるものでも地からわいてくるものでもない、ということだ。

ユーロを離脱すれば元の通貨ドラクマを発行できる。その通り、いくらでもドラクマを刷ることはできるだろう。しかし、それはおカネではない。財政破綻した国家が刷るおカネを、おカネと信じて使うひとがいるだろうか。僕ならドラクマを手にした瞬間にユーロかドルに換える。誰もがそうするだろう。結局、それは紙くずであっておカネではない。従って、ユーロ離脱・ドラクマ復活というプランはちょっと考えれば実現不可能であることは誰でもわかる。

まずこのままでは銀行を開けられない。銀行を開けられなければおカネが使えないから経済が成り立たない。そもそもギリシャの銀行にだっておカネがない。

つまり、結論は、ギリシャにカネがない以上、誰かに用立ててもらわなければ、どうにもならないということである。誰が用立ててくれるのか。EUであり、ECBでありIMF以外にいない。結局、選択肢はひとつしかなく、これまでのようにトロイカからの資金援助を仰ぎながら、つつましく暮らし財政を立て直すしかギリシャに道はない。ウルトラCもスーパーマジックもない。だったら、最後はそこに帰結する。

結論はそれ以外にないのだけれど、そこに行き着くまでのプロセスをゲームの材料にする連中がいっぱいいる。しばらくギリシャのドタバタで稼ごうという連中だ。彼らの言い分はこうだ。

ギリシャの問題がギリシャにとどまらず他に波及するのがリスクだと。

確かに2年前の欧州債務危機の際にはポルトガル、スペイン、イタリアなど南欧諸国に危機が波及した。しかし、当時レポートで述べた通り、欧州債務危機の本質は「投機」であり、投機を抑えるためにECBが果敢に対応したら、即座に危機は沈静化した。現在は、ECBの緩和姿勢 - 信用緩和もふくめて - はさらに強化されており、まったく他に伝播する気配がない。南欧諸国の国債は当然売られ利回りは上昇したが、限定的である。6月の高値にすら届いていない。

そして肝心のユーロが、世界同時株安を横目に買い戻されて、先週末の水準に戻っている。金融・為替市場は意外なほど落ち着いている。

それもそのはずだ。いまやギリシャの債務を負担しているのは公的機関だけで、民間の金融機関の資金はほとんど入っていない。ギリシャ崩壊⇒世界的な金融不安、というリスクはほぼゼロである。

バブル崩壊が金融危機を招くのは、先進国の金融機関がレバレッジをかけてカネをその市場にぶちこんでいる場合のみである。その意味では中国株のマーケットが崩壊しても、危機は世界には拡大しない。

ギリシャ問題の落ち着きどころは、逆説的だが、市場がこの材料に飽きるのを待つしかない。待ったところで世界の経済・市場に悪いことは起こらない。巷間、言われる「ギリシャ悲劇」が起こるのはギリシャだけの話である。

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