8月初旬まで続いていたユーロ/ドルの強力な上昇の流れが、足下では完全に一服してしまっています。考えられる要因としては、一つにユーロ/ドルが当面の上値の目安と思われる水準にすでに達したということが挙げられるでしょう。
下図を見ても明らかであるように、まずユーロ/ドルの直近高値は一目均衡表の月足「雲」下限の水準に一旦到達し、そこからの上値は分厚い「雲」の壁によって強力に押さえられるという、まるで絵に描いたような上値抵抗の前で上げ渋っています。この月足「雲」下限は現在1.1879ドルに位置しており、その少し上方には現在1.2079ドルに位置している62カ月移動平均線(62カ月線)の節目もあります。
振り返れば、2010年6月安値や2012年7月安値が其々1.1876ドル、1.2042ドルといった水準にあり、大よそ1.18ドルから1.20ドルあたりの水準が相場の重要な節目として市場で意識されやすいということも事実です。
さらに、ここで「現在は2015年3月安値を起点とするA-B-Cの3波動が形成されており、2017年1月安値からがC波である」と仮定してみましょう。テクニカル分析のセオリーによれば、このC波の上昇幅というのは「さしあたりA波の1.236倍や1.382倍になることが多い」とされています。よって、当面のC波の上値の目安というのは計算上、1.1887ドルや1.2070ドルということになるのです。これは、前述した一目均衡表の月足「雲」下限や62カ月線と非常に近い水準であるとわかります。
これらのことから、総じて足下のユーロ/ドルはテクニカルな(テクニカル分析上、重要と思われる)当面の目標水準に一旦到達したということになると見られます。もちろん、ユーロを取り巻くファンダメンタルズ的な条件が俄かに急変でもすれば、そこから一段の上値を追いに行く可能性もないとは言えませんが、今のところはファンダメンタルズ的にもユーロが一旦売り戻されかねない状況になってきていると見ることができるように思われます。
周知のとおり、先週17日に公開された7月開催分のECB理事会議事要旨では、メンバーが最近のユーロ高を警戒していたことが明らかにされることとなりました。仮に、今後もユーロ高の状況がしばらく続けば、その悪影響によって欧州中央銀行(ECB)による量的緩和策の「出口」に向かう計画がこれまでの想定よりも後ずれする可能性も大いにあると思われます。なにしろ、ユーロ高なら域内の物価には下押し圧力がかかりやすくなるわけで、そのぶん金融政策を引き締め方向に導く必要性は低下するわけです。
市場では、今週末に米ミシガン州ジャクソンホールで行われるカンザスシティ連銀主催の経済シンポジウムにECBのドラギ総裁も参加し、講演する予定であると言われていることから、その話の内容に強い関心が寄せられています。7月のECB理事会でユーロ高への懸念が示されたとあっては、さすがに現時点でわざわざ量的緩和の出口戦略について具体的に言及することはないだろうと見る向きも少なくはありません。すでにパラパラとユーロ売りの動きは見られていますが、週末から週明けにかけて少々動きが急になる可能性もないではないものと思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役