目下の市場の関心は、明日(8日)行われる複数の重要なリスクイベントに集中しています。周知のとおり、それはECB理事会、英総選挙、コミー前FBI(米連邦捜査局)長官の議会証言などであり、場合によっては、それらがいずれも市場でドル売りの材料になり得るとして、それを警戒するムードが強まっています。
ECB理事会については、前回更新分の本欄でも述べたように、目下のところ将来的な金融政策の方向性を示すフォワードガイダンスを、出口戦略に向けて変更してくるとの見方が市場で強まっており、結果としてユーロ買いの流れが強まれば、そのぶんドルが売りに押されやすくなると見る向きが少なくないようです。
「いよいよECBが本格的に"出口"に向かう」との見方については、いまだ時期尚早、あくまで期待先行との見解もありますし、仮にガイダンスを変更する方針が打ち出されたとしても、それはすでに織り込み済みと見る向きもあります。実際、足下でユーロ/ドルはすでに1.1260-80ドルあたりまで急ピッチで上値を伸ばしてきており、むしろ「(噂で買って)事実で売り」のパターンとなることもあり得なくはないでしょう。
英総選挙については、メイ首相率いる保守党が第1党を確保する見通しであるものの、単独で過半数を確保することは難しいと見る向きも少なくはなく、仮に連立を組む必要に迫られれば、新政権樹立までに一波乱あり得るとの見方があります。もちろん、保守党優勢で全体のことが進むと市場が見做せば、結局は"ほぼ無風"で通過することとなる可能性も大いにあると言えるでしょう。
やはり、何より市場が警戒しているのは前FBI長官の議会証言。最悪の場合、件のロシアゲート疑惑が深刻化して、米大統領が弾劾や辞任に追い込まれる可能性が高まれば「当面は米政局が混迷して肝心な経済政策の審議の行方が不透明になる」、「少なくともリスク回避のムードが市場で強まり、一時的にもドル安・円高傾向が強まりかねない」といった懸念が目下は拭い切れない状況にあります。
前FBI長官は「米大統領の司法妨害に関する致命的な証言はしない」との情報も伝わってはいますが、すでにドル/円については事前の調整売り、見切り売りなども出てきていることから、一応は当面の下値の目安となり得る水準についても考えておきたいところです。
下図(ドル/円の週足チャート)でも確認できる通り、足下のドル/円は一目均衡表の週足「雲」下限(現在は109.37円)付近まで下押す展開となっており、まずは週足「雲」下限が下値サポートとして機能するかどうかが注目されます。ちなみに、昨日(6日)のやや大幅な下げによって、4月24日に空けた「窓」は埋められた格好になっており、とりあえず執筆時は下げ一服の展開となっています。
仮に、週足「雲」下限を一旦下抜けたとしても、その下方には62週移動平均線(62週線)が控えており、同線が下値を支える可能性もあります。過去においても、重要な局面で62週線や週足「雲」(上限・下限)が下値支持や上値抵抗として機能したケースは数あり(図中の点線・楕円を参照)、今回も一つの下値の目安になり得るものと思われます。なお、いまだ62週線は下向きながら、31週移動平均線(31週線)は上向きであり、趨勢的なドル高・円安基調は継続していると見ることもできるものと思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役