前回更新分で述べたように、2017年の幕開けは昨年11月以降にスタートしたトランプ相場の勢いを引き継ぐ明るいムードのなか、ドル/円が一旦は118.61円まで上値を伸ばして昨年12月高値=118.67円に顔合わせする場面もありました。しかし、その後は少々勢いを欠く展開となっており、目下は116円を挟んでもみ合う展開となっています。

ここで一つ注目しておきたいのは、下図に見るとおり、ドル/円の一目均衡表(日足)における「遅行線」が今まさに日々線と交錯し、一旦は日々線を下抜けかねない状態であるということです。これは、トランプ相場がスタート以来、初めてのことであり、足下では文字通り、トランプ相場が一旦"壁"にぶつかる可能性を高めていると言えそうです。

実のところ、これと似たような場面は過去にも幾度かありました。例えば、それは2014年10月末に日銀が追加緩和策の実施を決めたことによって後にドル/円が急騰し、同年12月に121.85円の高値をつけてから一旦大きく調整した場面です(図中・赤楕円)。当時も、日銀の追加緩和決定で大きく水準を切り上げた「遅行線」が調整入り後に日々線と交錯し、一旦は日々線を下抜けて、その後しばらく調整が続きました。もちろん、当時も大きな流れはドル高・円安方向であり、実際にドル/円は後に125.85円まで上値を伸ばすこととなりました。

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周知のとおり、日足の「遅行線」は現在位置している水準を「当日を含む26日前(過去)」の位置に記入して、現在と26日前を比較するもので、この遅行線が位置するところというのは、言うなれば「大よそ1カ月前の売買コスト」を示すということになります。現時点で言えば、当然のことながら、大よそ1カ月前にドル/円を買った投資家は含み損を抱えており、逆に売った投資家は含み益を抱えているということになります。

この「遅行線」が日々線を下回る展開となった場合、これを『逆転』と称し、セオリーでは一旦「売り」と判断されることになります。結果的に、相場は暫く調整含みの展開を続けることが多く、実際に2014年12月初旬以降も大よそ3カ月ほどは調整含みの展開が続きました。同じように、今回もテクニカルにドル/円が一時的な調整局面を迎える可能性は否定できないものと思われます。

一方で、いよいよ今月下旬からトランプ新政権が始動します。よく言われるようにトランプ氏がこれまで掲げてきた経済改革の内容には、いわゆる「トリレンマ」が内包されており、当初は「このトリレンマと新政権がどう向き合うか」を市場が様子見したいというムードを強め、結果的に一旦はトランプ相場が小休止する可能性もあるものと思われます。

ここで言うトリレンマとは、一つに大型減税や大規模なインフラ整備を進めるとする一方で、米金利の低位安定をも志向しており、そこには二律背反の関係性があるということです。財政を大胆に出動させれば、それだけでも金利は強含みとなりますし、結果的に米景気が上向くこととなれば、更に一段と金利は強含みとなります。米金利が上昇すれば、必然的にドルは強含みとなるでしょうし、保護主義的な志向を貫こうとすれば輸入物価を低位安定させるためのドル高も必要になるでしょう。

最終的にトリレンマを解消するためには、少なくとも何か一つを捨てざるを得ません。そこで捨てざるを得ないのは「ドル安志向」である可能性が最も高いと思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎

経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役