欧米の政府機関・関係機関などが長い夏季休暇に入っていることもあり、外国為替相場が薄商いに終始するなか、一部のファンド勢が仕掛けたと見られるドル売りによって、昨日(16日)はドル/円が一時99円台半ばあたりの水準まで大きく下押す場面もありました。
例年、夏季休暇中で夏枯れの市場においては、通常であればもっと材料視されてもおかしくないような重要な事柄でさえ、一時的に鳴りを潜めてしまうようなことが少なくありません。その点について、8月9日付の日本経済新聞(夕刊)の『ウォール街ラウンドアップ』が実に興味深い指摘をしていました。同コラムのタイトルは「『波乱の種』続々の秋に備え」。つまり、夏季休暇中は鳴りを潜めている「波乱の種」が秋以降に芽を出してくる可能性もあるため、今のうちから心の準備だけはしておいた方が良いという指摘です。
その一つとして挙げられていたのは『トランプ大統領』。同コラムでは「相場はまだ明確な材料として織り込み切れていないが『トランプ大統領』への危機感は強い」などとし、米ブラックロックのグローバルチーフ投資ストラテジストによる「トランプ氏の支持率が上昇すると不透明感から株式などリスク資産に悪影響が出るだろう」といった分析コメントを紹介していました。その点、ここにきてトランプ氏の支持率が急速に低下していることは"リスク資産に好影響"ということになる可能性もあるものと思われます。
他に、波乱の種になり得るものとして挙げられていたのは「欧州金融システムへの不透明感の高まり」、「ベネズエラの財政破たん」、「中国経済の予想外の減速」といったものでした。なかでも、とくに欧州金融システムが抱える問題については、喫緊の対応が求められているのにも拘らず夏季休暇の時期に突入してから急に鳴りを潜めてしまったものの代表格と言えるのではないかと思われます。休暇明け後、一気にユーロ売り材料として蒸し返される可能性も十分にあるものと心得ておく必要があるでしょう。
そんななか、目下の市場では「些か不用心に過ぎるのではないか」と思えるほどの勢いでユーロ/ドルが上値を伸ばしてきています。下図にも見られるように、昨日(16日)は一時1.1322ドルまで値を上げる場面があり、同日の終値で一目均衡表の日足「雲」上限を上抜けました。もっとも、これはユーロ自体に買い材料があったわけではなく、ドルが仕掛け的に売られた結果であり、そうは続かないと見る向きも少なくないようです。
日足「雲」上限を終値で上抜けたとは言え、1-2日程度の値動きだけで判断できないことは言うまでもありません。日足「雲」上限あるいは下限との位置関係が重要な意味を持っていることは確かですが、図中の赤点線・楕円で示した幾つかの場面でもそうであったように、日足「雲」上限を1-2日程度上抜けた後に反落した、あるいは日足「雲」下限を1-2日程度下抜けた後に反発したという過去の実例も数あります。
また昨日の高値が、昨年12月3日安値と今年3月10日安値を結ぶ"以前のサポートライン(昨年12月初旬から形成されていた中期上昇チャネルの下辺)"の延長線に達したところで頭を押さえられる格好になった点も見逃せないものと思われます。7月5日にブレグジット・ショック後の戻り高値をつけたときもそうであったように、同ラインの延長線というのは強い上値抵抗の一つとして意識されやすいものであると考えられます。そうした点も考慮したうえで、やはり今後のユーロ/ドルの下値リスクには一定の警戒が求められるのではないかと思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役