経済同友会が6月28日に再生可能エネルギーの普及・拡大に向けた提言書(注1)を公表した。だが、わが国では再エネに対する盛り上がりはまだ国民に浸透していないようだ。「必要なのはわかるが、電気代があまり上がるのは困る。今後は必要最小限でよい」という意見が多いのではないだろうか。海外での熱意の高さとの違いは、再エネのコスト見通しに関する認識の違いにも起因していると思われる。

1. 太陽光発電はなぜ「高い」

わが国の太陽光発電は、設備費用は順調に逓減しているものの、確かにまだ国際相場よりはかなり割高だ。原因を分析してみると、国際的にみて高いコスト要因は土木工事の部分であり、そのコストは2012年以降ほぼ横ばいのままである。わが国とドイツとの太陽光発電システムのコストを比較した自然エネルギー財団の資料(注2)によれば、確かにモジュールやパワコンといった機器コストでも差はあるが、最も差の大きい費目は「建設工事費その他」の部分で、施工期間の差によるものだ。ドイツでは、いわばプレハブ住宅的に架台据付けの工数を極小化する設計思想に加え、専用杭打機を使うことで、施工期間がわが国の1/7~1/5で済んでいる(1MWクラスで2~3週間)という。しかし、このように「無駄」に見えるわが国の建設工事費も、資源エネルギー庁の資料(図表1)では「(モジュール以外の)残る約5割の費用も、パワコンや架台等の国産設備や地元における施工工事が占めており、地域経済や国内産業への一定の波及効果を生んでいる」(注3)と、前向き評価だ。こうした「国内産業に波及するならコストが高くてもしかたない」という考え方が、コスト高が解消されない原因のようにも思われる。

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2. 太陽光発電のおかげで電気代が安くなる?

こうした高コストに対応した高めのFIT価格がわが国の太陽光発電の導入を支えたと言われ、「再エネのおかげで電気代が高くなっている」というのが現在のわが国の「常識」かもしれないが、将来はなんと、太陽光発電のおかげで電気代が下がる可能性が高い。第1に、2030年には太陽光の発電コストが将来はLNG火力を下回り、石炭火力に匹敵する1kWh当たり12円程度になると予想されているからだ(図表2)。

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さらにNEDOは、2030年の太陽光の発電コストを7円とする計画を進めているという(注4)。もしそれが実現すれば、太陽光は文句なしに最安価な電源となるだろう。第2に、20年間の買取期間が終了すれば、発電コストゼロの発電所となるからだ。税込42円という最初の高額な買取価格が終了する2032年以降は、電力小売市場自由化も相当進んでいようし、ゼロコスト電力が市場に安価に出回り、「太陽光のおかげで電気代が下がった」と言えるようになる可能性が高いのだ。太陽光発電協会の資料(注5)によれば「2016年度以降、新たに認定される設備に関しては、電力コストの増加効果よりも削減効果が大きく上回ると見込まれる。」とのことだ。

3. 再エネ普及の課題は「難しいからできなくてもいい。高くなってもいい」という先入観

経済同友会の提言書は再エネ普及の具体的な課題と解決策について詳しく述べているが、中でも地元関係者との利害調整が大きな阻害要因とのことだ。再エネを全国に普及させるにあたっては、地元への利益還元も確かに重要だが、その方法については熟慮が必要だろう。上述のような地元業者優先等の期待が大きくなりすぎると、事業採算が悪化し、案件が成立しなくなってしまう。地方創生のためには、土木工事のような低付加価値で一過性の労働対価としてではなく、再エネ事業そのものからの利益配分や再エネを地産地消する事業創出といった形で利益が長期的に共有されることが必要だろう。再エネ導入コストを下げ、長く使うという意識への切替えが、全国に分散電源を普及させる鍵となりそうだ。

COP21の議長国であったフランスがパリ協定書を6月15日に批准した。「+2度目標」の達成にむけて世界が再エネを基幹電源としようとしている中、わが国も国民意識を改革し、「むしろこれから」再エネ普及を加速すべきだろう。

(注1) 2016年6月28日経済同友会 環境・資源エネルギー委員会『「ゼロ・エミッション社会を目指し、世界をリードするために」―再生可能エネルギーの普及・拡大に向けた方策―』

(注2) 自然エネルギー財団「日本とドイツにおける太陽光発電のコスト比較~日本の太陽光発電はなぜ高いか~」

(注3) 2014年6月17日経済産業省「再生可能エネルギーを巡る現状と課題」

(注4) 2014年9月30日国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ニュースリリース『「太陽光発電開発戦略(NEDO PV Challenges)」を策定』

(注5) 2016年3月9日太陽光発電協会「さらなる太陽光発電の導入拡大に向けて」

コラム執筆:松原 弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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