現在欧州に関して注目されているのは、今年6月23日実施予定の英国のEU離脱に関する国民投票(Brexit問題)やシリアからの難民問題、ISによるテロなどであり、ギリシャ問題は注目が薄れた感がある。だが、ギリシャ問題は根本から解決されたわけではない。今、改めてギリシャに目を向けてみたい。

先頃、ギリシャの2015年の実質GDP成長率が発表され(図表1)、前年比▲0.2%となり、2年ぶりのマイナス成長に転じた。実質GDP(2010年基準)で過去と比較すると、ユーロ導入前の1999年の水準まで落ち込んでいる。実質GDP成長率の内訳では、家計消費の寄与度が同+0.2%と押し上げたものの、依然として弱い状態が続いている。投資の寄与度は同▲1.6%となり、2年ぶりにマイナスに転じた。これは、2015年初から政治混乱が発生し、9月に漸くEUなどによる第3次支援が決まるまで継続してしまったため、主に海外からの投資が思うように伸びなかったことが背景である。

欧州委員会の冬季経済予測によると、2016年のギリシャの実質GDP成長率は、上半期は2015年の政治混乱による経済停滞の影響を受け落ち込むが、下半期から緩やかに持ち直し、通年では2年連続でマイナス成長に落ち込むとみられている。

20160329_marubeni_graph01.JPG

市民の生活実態に近い小売売上高と賃金に着目し、その推移を過去にさかのぼってみてみると、近年の苦境が浮かび上がる(図表2、3)。ギリシャでは2001年のユーロ導入や2004年に開催されたアテネオリンピックなどによる長期間の好況を背景に小売売上高や賃金は着実に伸びてきた。しかし、リーマンショックや財政危機を背景に大きく下落し、2013年以降は小売、賃金ともに下落幅は小さいものの、低調に推移している状況が現状まで継続している。

20160329_marubeni_graph02.JPG
20160329_marubeni_graph03.JPG

政治情勢も安定性を欠いた状況となっている。2015年9月20日に行われた総選挙では、ギリシャの連立与党は全300議席中155議席(3月23日現在では、153議席)と辛うじて過半数を獲得したにとどまった(図表4)。ギリシャより経済規模の大きいスペインやアイルランドでも先ごろ選挙が行われたが、過半数を獲得する政党が生まれず、連立協議が不調になっている。今後これらの国々で再選挙が行われる可能性についても一部報道では指摘されており、再選挙の結果によっては政治的な混乱が発生し、ギリシャ経済にまで影響が波及する恐れもある。

20160329_marubeni_graph04.JPG

このようにギリシャの政治経済情勢は、依然脆弱な状況にある。こうした中、2016年には300億ユーロのIMFなどへの償還があり、その後も欧州安定化メカニズム(ESM)などに対する債務の返済が2059年まで続き、長期間にわたって不透明感をぬぐいさることはできないとみられる。ただ見方を変えると、2009年以降ユーロ圏が紆余曲折を経ながらも金融危機に対応する制度の改善を着実に進めることで何とかギリシャのユーロ離脱を回避してきた実績もある。今後欧州経済が景気停滞の局面を迎えることもあろうが、巨大な単一通貨圏であるユーロに関する制度的な改善が加えられていき、ギリシャが世界経済の荒波を乗り越えていくことを祈りたい。

コラム執筆:佐藤 洋介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

■丸紅株式会社からのご留意事項
本コラムは情報提供のみを目的としており、有価証券の売買、デリバティブ取引、為替取引の勧誘を目的としたものではありません。
丸紅株式会社は、本メールの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。
投資にあたってはお客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。