中国人観光客による「爆買い」に対する関心が高まっている。日本を訪ねる中国人観光客は2014年以降に急激に増えた。政府観光局の統計によると、2014年の実績は241万人、そして2015年は8月時点で既に2014通年を遥かに越えた335万人(前年比117%増)の訪問者数となっており、訪日観光客全体の数字を引っ張る勢いである(図1)。

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更に、単なる訪問者数ではなく、中国観光客の旅行消費総額(5583億円)、一人当たり旅行支出(23.2万円)の何れも2014年の数字では第一位であり、消費力のインパクトが目覚しい。一方、足元では中国の景気減速懸念が高まっており、中国人観光客による「爆買い」はいずれに消えるではないかとの心配の声が聞こえるようになった。そこで今回は「爆買い」を生む背景とその行方について分析してみた。

中国国家旅行局のデータによると、中国人の海外旅行者数は2010年以降、約20%のペースで増加しており、2014年には年間1億人を突破した。香港・マカオへの旅行者を除いても、年間3000万人以上の規模があり、中国人観光客は世界中に出かけている(図2)。こうした現象の背景には、「経済」的要因及び「政策」的要因があると考えられる。

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「経済」的要因としては、まず中間層・富裕層の拡大が挙げられる。2014年、全国平均の46,652元(7,595ドル相当)の一人当たりGDPに対し、東部に位置する北京、上海等合計9つの直轄市・省はすでに10,000ドル台を超え、平均水準を大きく上回った。こうした地域を中心に、急速に拡大してきた中間層・富裕層が、海外旅行者の中心となっており、証券会社の中銀国際によると、2014年の海外旅行者の内、北京等四つの東部地域からの訪問者数が、全体のおよそ6割を占めている。また、変動相場制への移行で2005年7月以来徐々に進行してきた元高が、人民元の購買力を向上させたことも要因である。特に対日旅行の場合は、急速に進んだ円安の影響を受け、人民元の相対的な購買力が一層向上している。

主要な「政策」要因においては、内部的要素と外部的要素とが存在する。中国政府は観光業の発展を支持するため、2013年2月に「国民観光レジャー綱要(2013~2020)」を発表し、有給休暇を2020年までに全国に普及させる目標を掲げた。加えて、2014年のAPEC以降、米国を始めとする各国での中国人観光客を対象としたビザ緩和ブームが、積極的な外部政策要因として考えられる。日本も発行条件を緩和したり、高所得者 (年収50万元程度) とその家族を対象に有効期間が5年、1回の滞在期間が最大90日間のビザを導入したりするなど、成長している中国の中間層・富裕層の購買力を狙う策を取った。

さて、「爆買い」の今後の行方に関しては、拡大ペースが緩やかになることはあるとしても、すぐにはマイナス成長にはならないであろうと、筆者は考えている。
最大の理由は、中間層・富裕層の拡大は継続している点である。中国政府は2020年までに一人あたりの国民所得を2010年比で倍増する目標を抱えている。IMF(World Economic Outlook, 2015.4)によると、一人当たりGDPも今後は持続的に年間7%前後のペースで拡大し、2020年には11,449ドルまで拡大すると見込まれている。ボストン・コンサルティンググループは今後世帯年収が10万元(1,628ドル相当)を超える中間層・富裕層世帯が中小都市を中心に拡大し、2015年の8,100万世帯から2020年には1億4,200万世帯にまで増加すると予測している。

中国政府が今まで以上に観光業の発展を後押しとしている点も見逃せない。2015年8月に発表された「観光投資及び消費の促進に関する若干の意見」では、今後は上述の有給休暇の普及のほか、従業員が旅行に行きやすくするためのフレックスワーク制といった制度の導入も提唱されるようになった。また、観光産業全体の発展の結果、格安航空便など旅行がしやすくなるサービスが更に普及していくことが考えられ、海外旅行は今よりもっと身近なものになるのではないだろうか。

日本が中国人観光客を更に呼び込み、消費を一層拡大させるためには、品質を求めるようになっている中間層・富裕層のニーズへの対応が肝要である。日本は中国に最も近い先進国として、例えば、越境EC(輸入通販)の発展によって「日本品質」のファンを増やすこと、また、ヘルスケアや医療サービスなどのサービス面においても、中国人観光客への対応力を高めることが必要と思われる。

コラム執筆:劉 楊/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 

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