筆者が住むマンションの大規模改修工事の時期がやってきた。かなりの費用がかかるが、古くなってきたのでやむを得ない。考えてみると、こうした老朽化インフラへの対応は、今後日本中で噴出する問題である。高度成長期に整備された多くのインフラが寿命を迎え、維持管理・更新費が大きく膨らむ。昨年12月に国土交通省が発表した試算によると、道路、治水、港湾、空港などの維持管理・更新費は2013年度に年間3.6兆円に上り、10年後には5.1兆円と4割増になる可能性もあるという。政府が膨大な借金を抱えるわが国にとって、さらなる財政悪化をもたらし得る大きな問題である。

実はこうした事情は、日本だけの話ではない。米国でも高速道路や橋などの老朽化が進み、実際に崩落事故なども発生している。先進国では多くのインフラが建設されてから久しく、軒並み同様の問題を抱えている。一方、新興国や途上国では、人口増加と経済成長に伴い、新たなインフラが必要になる。つまり、今後世界では、インフラの新規建設から維持管理・更新まで、国の発展段階に応じた様々なニーズが顕在化してくるのである。

インフラ投資は、世界経済の成長にとっても、極めて重要である。今年2月に開催されたG20財務相、中央銀行総裁会議では、G20全体のGDPを今後5年間で2%以上引き上げる目標が掲げられ、インフラ投資はそれを実現する方策の一つに位置づけられた。インフラ投資は、国の基盤を整備しつつ、雇用を生み、経済成長を実現する「世界規模の成長戦略」なのである。

このようにインフラ整備の必要性が高まり、その重要性が広く認識された今こそ、世界のインフラの再設計に乗り出すときである。日本では、単にインフラの維持管理・更新を続けるだけではなく、新たな社会のニーズに合わせた姿に変えていくことが重要であろう。少子高齢化、防災、環境配慮といった社会の変化に対応し、インフラのバリアフリー化、防災・耐震性の強化や、選択と集中、統廃合による合理化などを進める必要がある。先進的な取り組みを行えば、他国の参考にもなろう。また、世界各国において、省エネ・低炭素化など環境に配慮したインフラを建設する、あるいはそのようなインフラに順次切り替えていくニーズも存在する。各国の財政制約に鑑み、PPP(官民連携)、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)やコンセッション方式(運営権売却)の利用拡大も不可欠である。

こうした流れは、わが国の出番に繋がろう。日本企業はインフラ事業の豊富な経験・実績を有し、高い技術力に基づく品質と維持管理の信頼性も高い。情報通信技術を活用したスマートコミュニティの普及など、未来志向型の取り組みも期待できる。また、官民をあげて、海外の膨大なインフラ需要を獲得していく機会も広がっている。新興国のインフラが整備されれば、日本企業の投資が促進され、サプライチェーンの戦略的展開や海外市場の拡大なども可能になる。新たな社会を築くインフラ事業への取り組みが、アベノミクスの第三の矢である成長戦略の柱の一つとして、一層活発化することを期待したい。

コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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