「経済予測と比べて、人口予測は正確」といわれます。エコノミストとしてはあまり使いたくない表現ですが、経済予測がいい加減というよりも、人口予測が正確すぎるのだ、と前向きに解釈することにして話を進めたいと思います。その正確な人口予測が示す日本の将来像は、ぞっとするものです。

国立社会保障・人口問題研究所による人口予測によれば、日本の人口は2010年の1億2,806万人から、2030年には1億1,662万人へ、2050年には9,708万人へと減少する見通しです。この間、14歳以下の年少人口は▲44%減少する一方、65歳以上の老年人口は+28%増加する見込みで、まさに少子高齢化が進展することになります。老年人口の総人口比は、2010年の23%から、2030年には32%へ、2050年には39%へと上昇する見通しです。2050年の生産年齢人口の割合は52%で、(専業主婦など)一定の非労働力人口が存在することを想定すれば、労働者と高齢者の割合はほぼ1対1になると考えられます。日本の社会保障制度は積み立て型ではなく、その時の労働者が高齢者を扶養することになるため、1人の労働者が1人の高齢者を支える「肩車型」の社会になるといえるでしょう。

その頃の生産年齢人口に該当する日本人(現在の20代以下~これから生まれてくる世代)は、現在と比べ、生産年齢人口の減少に伴う成長率の低下に直面している一方で、高齢者(引退世代)の増加によって社会保障負担は大幅に増加していることになります。そんな厳しい時代を迎える将来世代に対して、今を生きる我々が財政赤字(=現在の世代による将来世代の収入の利用)を積み上げてさらに負担を押し付けているわけですから、日本の将来を思うにつけ暗澹たる気持ちになります。

将来世代の負担を減らすためにも財政再建は喫緊の課題ですが、日本の潜在成長率では自然の税収増での財政再建は期待できず、大幅な増税、あるいは社会保障費の大幅な削減を行う必要があります。一方、政府が進めている社会保障と税の一体改革において、消費増税に強い抵抗があり、社会保障費削減の議論は先送りが続くなど、財政再建は政治的プロセスでブレーキがかかりがちです。財政再建は、「誰が痛みを負うか」の負の配分で、便益の配分ではないため、現在の世代の配分を増やすことを有権者に説得するのは容易ではありません。

問題は、上に挙げたような将来世代のほとんどには選挙権がなく、現在の世代が一方的に配分を決定してしまうことです。そして、少子高齢化が進むということは、将来世代の便益を代表する声が日増しに届きにくくなることを意味します。

少し具体化してみましょう。日本の2012年時点の人口は約1億2,700万人で、うち20歳以上の有権者は1億500万人(82%)、60歳以上の人口は4,100万人(32%)です。有権者に占める60歳以上の人口は39%を占めており、現時点でも高齢者の声はかなり強いことが分かります。さらに、日本では年齢層が高いほど投票率が高い傾向にあるため、近年の投票率を加味すると、60歳以上の総投票数に占める割合は43%に高まります。

先ほどの人口推計を用いれば、2030年には、この60歳以上の総投票数に占める割合は49%に達し、2050年には55%と過半を超えます。つまり、将来世代が生産年齢人口(現役世代)になった時点において、政策を決定するのはその時の高齢者になってしまうということです。将来世代は、現在だけでなく、将来に亘って、自らの便益を政治的に実現することが困難ということになります。

現役世代と高齢者という分け方ではなく、子育てに関心がある世代と、引退後に関心がある世代という分け方にすると、状況は一段と深刻です。例えば、前者を40歳代まで、後者を50歳以上とすれば、既に2012年の段階で、総投票数に占める子育て世代の割合は40%に過ぎず、もはや子供のための施策の政治的な実現が難しい状況にあります。さらに、同比率は、2030年には32%、2050年には29%へと低下していく見通しです。

かつて、政治に関して使われる「ジェロントクラシー(老人支配)」という表現は、若い国民に対する高齢の政治家を意味するものでした。しかし現在では、高齢の有権者が政治を支配するという意味で使われるようになっています。将来世代と現在の世代との間で損益のトレードオフが存在し、将来世代にはそれを政治的に交渉する手段がないのは、政治システムの深刻な欠点といえるでしょう。社会保障制度改革や増税の前に、まずこのシステムに制度的対応をすることが必要かもしれません。

コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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