昨日(5日)、ドル/円は一時109.94円まで下押す場面があり、かねてから重要な節目の一つと見られていた110円の水準を一時割り込む展開となりました。目下は、同水準を明確に下抜けるかどうかの正念場に差し掛かっていると見ることができそうです。
前回更新分の本欄で「注目したい」と述べた3月の米雇用統計における「平均時給」の伸びは、前年同月比+1.7%と事前の市場予想を若干下回りましたが、昨年まで1%台前半から半ばあたりの水準で推移していたことを考えれば必ずしもネガティブな水準ではありませんでした。また、3月のISM製造業景況指数も51.8と、景気判断の分岐点である50を半年ぶりに回復し、米国経済は緩やかながらも着実に成長度合いを高めつつあるように思われます。それにしては、このところドルが円やユーロをはじめとした諸外国通貨に対してあまりに弱い基調を辿り続けているのは一体なぜなのでしょうか。
先週31日付の日本経済新聞は「世界経済の下支えへ日米欧が政策協調しているとの観測も浮上している」と報じました。実際、2月下旬に上海で行われたG20財務相・中央銀行総裁会議が閉幕してからというもの、俄かに日米欧の金融政策に政策協調とも取れる動きが目立つようになったことは事実と言えます。そして、目下はG20の容認を得て"ドル高の修正"がじりじりと進んでいるようにも見られます。
ただ、ここにきて新興国からの大量資金流出に伴う世界経済不安定化のリスクがかなり大きく後退していることもまた事実です。3月に入ってからのドルは主要31通貨すべてに対して下落し、ロシア・ルーブルやブラジル・レアルまでもが対ドルで大きく値上がりするなど、新興国通貨全体が大幅高の展開となっています。つまり、一頃大いに懸念された世界経済のリスクは足下で大きく後退しているわけです。
そこで注目しておきたいのは、何と言っても4月14-15日にワシントンで開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議の行方でしょう。焦点は、その場において「世界経済のリスクが一頃よりも大きく後退した」との認識を各国が共有することとなるかどうかです。そうした認識が共有されれば、日米欧の金融政策には一定の自由度が生まれることとなり、さしあたって4月26-27日に予定されるFOMCの声明内容も、これまでよりは少々タカ派的な色合いを帯びたものとなる可能性があるとの連想にもつながりやすくなるのではないかと思われます。
もちろん、今回もG20が「依然として世界経済のリスクは高い」との認識で一致するようであれば、今後一段のドル安が進行する可能性もあり、その点は十分に警戒しておく必要もあるものと思われます。まして、4月中旬からは米主要企業の1―3月期決算の発表が相次ぎ、その結果次第では米株価の調整などを通じて、ドル安・円高の傾向が強まる可能性もあるものと少々心配されるところです。
今しばらく、米国の追加利上げがなかなか現実味を帯びてこないといった状況が続くとすれば、その前に一旦はドル/円が節目の110円を明確に下抜ける可能性も十分にあるものと思われます。その場合には、本欄の3月23日更新分でも触れたように、テクニカル分析のセオリーに基づく下値の目安の一つである106円台半ばあたり、あるいは心理的節目となり得る105円前後の水準を試す可能性もあるものと見ておく必要があるでしょう。昨年6月高値を起点とするドル/円の中期的な調整は、いよいよ最終段階を迎えようとしているものと思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役