「2052 - 今後40年のグローバル予測」という本が売れている。40年前に「成長の限界」を執筆し将来のシナリオを描いたヨルゲン・ランダース氏が、新たに40年後の世界を予測したものだ。本書によると、今後、人類は様々な課題に直面し、このままでは厳しい未来を迎えることになる。
とりわけ、先々に待ち受ける資源枯渇、気候変動は大問題である。我々はそれらの問題にどう対処すべきか。それを考える上で筆者が重要と考える3つの視点を挙げたい。
第1は「エントロピー」である。エントロピーとは拡散の度合いのことであり、自然現象は常にエントロピーが高くなる方向へと進む。エントロピーが高いものは具体的には廃棄物や廃熱などであり、こうした不要物が地球上に増えていく。これは「エントロピー増大の法則(熱力学の第二法則)」と呼ばれ、絶対的な物理法則である。
資源もこの法則に従い、一方向に拡散し劣化する。その逆に濃縮し質を高めるには、エネルギーの投入が必要になる。人間は掘りやすく質の良い資源から採取し、アクセスが難しく質の悪い資源が残っていくため、資源を取り出すのに、後になるほど多くのエネルギーを投入しなくてはならなくなる。つまり、濃縮された良質の資源を手にするハードルが、どんどん高くなっていくのである。
第2は「タイムラグ」である。資源開発や技術開発は時間を要する。また、温暖化についても、大気中の二酸化炭素を減らすことができたとしても、大気温度が安定化するには時間がかかる。資源枯渇や大気変動の問題は、将来まずいと気がついてから行動に移すようでは、手遅れになる可能性が高いのである。
第3は「グローバリゼーション」である。国境を越えたヒト・モノ・カネ・情報の往来はますます増え、世界は相互依存を深めている。地球規模の課題に対して、もはや一国のみの政策対応では不十分であり、国際協調が欠かせない。
これらを考慮すると、次のことがいえるだろう。まず「エントロピー」の視点では、地球環境への負荷が小さい、低エントロピー社会を構築しなくてはならない。太陽光など再生可能エネルギーの最大活用も必須である。エネルギー消費を抑える省資源・省エネも欠かせない。温暖化ガスの排出削減も待ったなしである。人間活動によるエントロピーの増大は避けられないが、その速度を抑えることは技術や政策により可能なはずである。
「タイムラグ」は事態の緊急性を示唆する。我々は、これまで以上のスピードで対策を進める必要がある。そして「グローバリゼーション」が進展する中、各国は同じ目標に向かって協力していかなくてはならない。日本が強みを持つ技術や参考になる経験を世界と共有し、貢献していくことへの期待も大きい。質(エントロピー)×時間(タイムラグ)×空間(グローバリゼーション)という多次元の視点が、我々が進むべき道しるべになるのではないかと思う。
世界人口は今後も増加していくが、国連人口推計やランダース氏の予測を踏まえると、その増加ペースは将来鈍化あるいは減少に転じ、2050年前後以降では人口要因による地球環境への負荷は落ち着くと考えられる。問題はそれまで我々がどう歩んでいくかである。ランダース氏が予測した今後40年間が、人類が持続可能な未来を迎えられるかどうかの正念場となろう。
コラム執筆:金子哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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