今年の6月、日本とアフリカ間の国際会議であるTICAD (Tokyo International Conference on African Development, アフリカ開発会議) が開催されます。1993年から5年に1度の頻度で開催されており、今回は第5回目に当たるため、TICAD V(ティカッド・ファイブ)と呼称されています。もともとは、冷戦終了後にアフリカが世界の発展から取り残されるとの懸念の中始まった、援助色の強い会議でしたが、近年はアフリカの資源や成長力への関心の高まりもあって、民間投資の増加に力点が置かれるようになり、より戦略的な協議の場へと位置付けが変化してきています。
前回のTICAD IVではアフリカが「希望と機会の大陸」と表現されましたが、これは誇張ではありません。例えばサブサハラ・アフリカ地域の実質GDP成長率をみると、1980年代は平均2.6%、1990年代は2.2%と、せいぜい2%台に過ぎませんでしたが、2000年代は5.6%と、一気に成長率が高まりました。IMFの予測では、2010年代の平均(2010-2017年)でも5.5%と高い成長率が見込まれています。また、人口小国を除けば、過去10年間の世界の成長率上位20か国のうち約半数はアフリカの国々です。1人当たりGDPでみれば、まだまだ貧しい国は多いものの、アフリカは援助のみを必要としている地域ではなく、既に成長市場として注目すべき地域になっているといえるでしょう。
こうしたアフリカの急成長に伴い、各国の民間投資も活発化しています。世界の対アフリカ直接投資額(フロー)と対アフリカODAを比較すると、1996-2000年の5年間平均ではODAの半分程度であった直接投資額が、2001-2005年の5年間平均では4分の3となり、2006-2010年の5年間平均ではほぼ拮抗、むしろ直接投資額がODAを上回るまでになっています。
一方、日本の対アフリカ直接投資額とODAを比較すると、やはり近年になるほど直接投資が増加する傾向にはあるものの、2006-2010年の5年間平均で直接投資はODAの3分の1弱にすぎません。また、日本の場合は、進出している業種も一部に偏っており、輸送機械・卸売業・運輸業の3業種で日本企業のアフリカ事業売上高の4分の3強を占めており、自動車・資源やその輸送といった狭い領域のビジネスにしか手をつけていないような状況です。こうした点に鑑みれば、世界に対して日本企業は出遅れているといっても過言ではなく、アフリカの活力を日本の成長に取り込む上ではやや懸念が残るところです。
もちろん、アフリカは法制度やインフラが未熟であり、民間企業が単独で投資を行う上ではリスクが大きい点は否定できません。最近のアルジェリアの事件では、テロ等の脅威に対して、邦人の安全をいかに確保するかという課題も浮き彫りになりました。また、アフリカ全体として捉えて成長性が高いとはいえ、アフリカには経済規模・発展度合いの異なる54カ国が存在し、かつ国家間のリンケージが必ずしも良好ではないため、投資効率の観点でも難があるといえます。
しかしながら、こうした問題点は日本・アフリカ諸国双方が認識しており、それを乗り越えて一段のアフリカ開発・投資促進を図るのが今回のTICAD Vの重要テーマになるはずです。アフリカでは既に国をまたがる広域インフラの開発などが進んでおり、TICAD Vでこうした面的な投資に向けた環境整備が後押しされれば、投資効率面での障害は減ぜられるでしょう。また、TICAD Vを契機として、民間投資を促進したいアフリカ側には相応の投資環境整備が求められると同時に、日本側として対アフリカODAの強化や工夫等により、民間企業のリスクを抑制して投資のインセンティブを高めることも期待されます。いずれにせよ、アフリカ投資への魅力を感じつつも、リスク等を考慮して二の足を踏んでいる日本企業にとって、TICAD Vが投資判断上の重要なイベントになるように思われます。
コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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