第31回では南アフリカの為替レートの動向を確認しましたが、今回は経済の動向と先行き見通しを解説したいと思います。南アフリカの2011年の名目GDPは4,081億ドルと、世界29位の規模で、27位のアルゼンチン、28位のオーストリアと、30位のUAE、31位タイの間に位置しています。人口は約5,059万人ですので、人口が1,000万人以下のオーストリアやUAEとは1人当たりGDPでみればかなり差がありますが、アルゼンチンやタイは比較的人口も近く、経済規模や豊かさの面ではこれらの国のイメージに近いといえます。

南アフリカは19世紀の金鉱脈の発見以来、豊かな鉱物資源を中心に発展が始まりましたが、鉱業を基盤に製造業やサービス業も拡大し、現在では第3次産業がGDPの7割、第2次産業が2割を構成し、鉱業など第1次産業の割合は1割程度となっています。今でも、世界の8割近い生産シェアを誇るプラチナ(白金族の埋蔵量シェアは90%超)など、鉱物資源は南アフリカ経済の強力な武器ではありますが、中間層(ブラック・ダイヤモンド)の拡大などを背景に、内需を中心とした経済成長が続いています。

1994年のアパルトヘイト(非白人隔離政策)撤廃後、経済制裁の解除等もあって、南アフリカは比較的安定した成長を始め、とりわけ2000年代後半には、5%台と、他の有力な新興国と比べても遜色ない高成長が続きました。一方、資源貿易などを通じて先進国や他の新興国との結びつきを強めたことから、リーマン・ショック後は世界経済の減速の影響を強く受け、南アフリカもマイナス成長に陥りました。その後は、世界経済が持ち直すにつれ、南アフリカ経済も回復しつつありますが、その勢いは緩慢で、2012年、2013年の成長率は潜在成長率とされる3.5%には達しない見込みです(IMF見通しは2012年:2.7%、2013年:3.4%)。

短期的なリスクとしては、外需、とりわけ関係の強い欧州の減速が挙げられます。欧州債務問題が再燃するような場合は、南アフリカ経済にも一定の悪影響が及ぶことになるでしょう。また、中期的なリスクとしては、拡大傾向にある経常赤字を指摘できます。政府債務残高は名目GDP比で40%程度と低く、多くが国内通貨建てであり、しかも外貨準備も潤沢であるため、短期的には問題視されることはないと考えられますが、将来的には海外資本への依存度の高まりが南アフリカ経済の脆弱性を高める可能性があります。

また、アパルトヘイト撤廃からまだ18年しか経っていないため、高い失業率、低い大学進学率、依然として残る人種間格差など、 "後遺症" とも呼べる経済の歪みが南アフリカ経済の足枷となっている点も指摘しておく必要があります。時間とともに改善しつつあるとはいえ、他の新興国にはない南アフリカ独特の阻害要因といえるでしょう。また、電力不足や相次ぐ労働争議などが景気を下押しする事態も散発的に生じており、アパルトヘイト撤廃後、議会の3分の2を占めているアフリカ民族会議(ANC)が、汚職や腐敗による機能不全に陥らずに、こうした問題にいかに対処していけるかも注目していく必要がありそうです。

コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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