サブサハラ・アフリカでは、多くの国で内戦や紛争が続いてきたことなどから、長い間低成長に苦しんできましたが、冷戦終結などを背景に政治が安定し、2000年代には資源ブームの追い風もあって高成長が始まりました。成熟に向かう新興国も出てきている中、今後の伸び代が大きい 「最後の新興市場」として、サブサハラ・アフリカ市場は世界の注目を集め始めています。

同市場最大の経済国で、金融システムやインフラなど、基礎的な経済環境が最も整っているのが南アフリカ共和国です。同国自身の魅力もさることながら、サブサハラ・アフリカ市場進出の拠点としての評価から、近年、企業や投資家の同国への期待が高まっています。今回は、その南アフリカの通貨であるランドの動きと先行き見通しを解説したいと思います。

リーマン・ショック後の主要新興国通貨の動きを振り返ってみると、ランドは他の新興国通貨と同様、いったんはランド安・ドル高に大きく振れましたが、その後の米国・世界経済の回復に伴って、ランド高・ドル安方向へと転換しました。高金利で人気を集める一方で相対的にリスクの高い新興国通貨は、世界経済が悪化する際には売られ、逆に回復する際には投資家のリスク許容度の改善とともに買われる、という傾向を反映した動きです。

同様に、2011年中ごろから年末にかけては、欧州の債務問題の深刻化などを背景に世界経済が減速する中で再びランド安・ドル高が進み、その後、足もとにかけては、世界経済が持ち直す中、ランド高・ドル安方向で推移しています。

為替レートの変動には、物価、金利、経常収支など、非常に多くの要因が複雑に絡み、市場がどの要素をテーマにするかによって動き方も変わってきます。したがって、現在の変動パターンが今後も持続すると単純に想定することはできないのですが、当面は投資家のリスク許容度とランド相場の連動性を意識しておく必要があるでしょう。投資家のリスク許容度は、商品市況にも顕著に現れるため、最近のランド相場は商品市況との連動性も強くなっています。

先行きについてみると、2012年から2013年にかけて、世界経済は緩やかな回復が続くと見込まれるため、投資家のリスク許容度も改善していくものと予想されます。したがって、足もとの相場の変動傾向を踏まえれば、当面はランド高・ドル安方向で推移する可能性が高いといえます。最も、世界経済の先行きには、欧州の債務問題の再燃や中東情勢の緊迫化といった深刻な下振れリスクが伴うことから、リスクが顕在化した際の大きな相場の反転の可能性には留意しておく必要があるでしょう。

また、相場のサポート材料としては、シティグループが作成し、国債運用のベンチマークとして世界中で活用されている "世界国債インデックス(World Government Bond Index、WGBI)" に南アフリカ国債が組み込まれ、大量の資金が流入する可能性がある点も指摘できます。シティグループは、10月以降、現在22カ国の国債で構成されるWGBIに南アフリカ国債を組み込むことを検討していると発表しました。最近では、2010年10月にメキシコ国債を組み入れた先例がありますが、新興国通貨が上昇していた時期であったとはいえ、組み入れ後はメキシコへの資本流入が拡大し、メキシコ・ペソも大きく上昇しました。

一方、中期的な相場の変動要因としては、経済のファンダメンタルズなども意識しておく必要があります。例えば、南アフリカは経常赤字が拡大傾向にあるため、外貨資産の積み上がりに対するリスクが意識される形で、中長期的にはランドの上値を抑える要因として作用してくる可能性があります。また、より長い目でみれば、内外価格差を調整するように為替レートが変動する傾向があり(購買力平価説と呼ばれます)、米国に比べ相対的に物価上昇率の高い南アフリカでは、長期的なトレンドとしてはランド安・ドル高に向かう可能性があります。最も、購買力平価ベースの為替レートと比較すれば、足元はランド安・ドル高方向に振れているため、仮に短期的に購買力平価説が実現する場合は、まずはランド高・ドル安方向への修正が入ることになります。ランド相場を占う上では、こうした潜在的な変動要因にも注意しながら観察していく必要があるでしょう。

コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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