先週(1月)29日、日銀によるサプライズ緩和の衝撃が世界の市場を駆け巡りました。かねて、日銀の黒田総裁がその可能制を何度も頑なに否定していた「マイナス金利の導入」が決まったわけですから、それは文字通りサプライズ(驚き)だったと言え、あまりの驚きから「とりあえず市場は円を売り戻してみた」ということだったように思われます。
結果としてドル/円、クロス円はともに一旦大きく値を上げる展開となり、日・欧・米の株価も一旦は大きく値を戻すこととなりましたが、そうした流れは一時的なものに留まることとなりました。マイナス金利の導入は、確かに相当な意外感をもって受け止められましたが、その効果のほどは今のところまだハッキリとしません。
1月29日に米株価が大幅高となったのは、少し前から原油価格が一時的に持ち直していたことも一因でしたし、月末特有のポジション調整やリリーフ・ラリー(波乱の1月が終わるという一種の安堵感)によるところも大いにあったと言えそうです。ただ、日銀によるマイナス金利の導入の決断によって「米当局(FRB)が連続利上げの計画を遂行するのではないかという市場の懸念」が少々和らいだという部分もあったことは確かでしょう。
日経平均株価も一旦は1万7,900円台まで値を戻す場面を垣間見ましたが、不動産株などが大きく値を上げる一方で銀行株が急落しているという事実も見逃せず、必ずしも全方位的に強気の姿勢で臨むというわけにも行きません。すでに一巡した国内主要企業の2015年10―12月期決算では通期予想を下方修正する動きも目立っており、今後はこれまで以上に外国為替相場の行方を意識した展開になって行くものと見られます。
そもそも、すでに追加緩和実施の可能性を示唆しているECBと、必要に応じてさらに金利を引き下げる可能性がある日銀の姿勢を前にして、ドル高に伴う輸出への影響を危惧するFRBが今後、利上げのペースをこれまでの想定よりも緩やかなものとする可能性は高まっています。つまり、目下はユーロや円の上値余地が限られてきているのと同時にドルの上値余地もある程度限られてきていると思われるのです。
もちろん、かねて「まず行動すべきは日銀だ」と述べていた黒田総裁が有言実行したのですから、次は安倍政権が行動しなければなりません。今回の日銀の行動によって、安倍政権が規制改革・構造改革に本腰を入れるとの期待は以前より強まってきたようにも思われます。また、今年は中国が20か国・地域(G20)議長国を初めて務めていることから、2月下旬には上海でG20財務相・中央銀行総裁会議が開かれる見通しとなっています。こうした場において、主要国の金融当局者が共同声明を出すなどして、市場に蔓延る中国リスクへの懸念が多少なり和らぐ方向へと向かうことも期待したいところです。
いずれにしても、やはり2月下旬あたりまでは年初からの波乱がなかなか収束せず、諸々の材料が綱引き状態となることでドル/円、クロス円が暫くはもみ合い状態を続ける可能性も高いものと見られます。やはり当面は、マイナス金利導入の効果を冷静に見定める時間帯が続くということになりそうです。
振り返れば、ドル/円は昨年8月にも一旦116円台前半まで下押した後に一時121円台後半まで値を戻して、後に暫くもみ合う展開を続けました。そして今回も、ドル/円は1月下旬に一旦116円割れの水準まで下押した後に一時121円台後半まで値を戻すこととなりました。よって、当面は118円台半ばから121円台半ばあたりを中心とした一定の価格帯のなかでの推移を暫く続ける可能性もあるものと見られます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役