本欄の過去の更新分で幾度も触れてきたように、2012年秋以降、ドル/円は62週移動平均線(62週線)や2012年9月安値と2014年7月安値を結ぶ長期サポートラインに長らく下値を支えられてきました。しかし、昨年末から年明けにかけてそれらの重要なサポートを順に下抜け、もはや「ドル/円は2015年6月高値=125.58円を起点とする調整局面に突入している」との見方が一層揺るぎないものとなってきているように思われます。

思えば、2007年6月にドル/円が124円台の高値をつけて反落してから、ちょうど8年後の2015年6月に再び高値をつけて反落となったのですから、2015年6月高値は「8年サイクル高値であった」と位置づけるに申し分のないものと言えるでしょう。過去のドル/円の価格推移において、大よそ8年ごとに目立った高値をつけるパターンが確認できるということは「8年高値サイクル」として広く知られています。

ここで一つ押さえておきたいのは、今回の8年サイクル高値(=125.85円)は前回のそれが位置する水準(=124.14円)を上回ったということです。過去の8年サイクル高値は前回の水準を下回ることが常でした。このことは、2011年10月にドル/円が75円台の安値をつけるまで大きな流れは「円高」であったが、以降は大きな流れが「円安」に転換したということを意味していると捉えることができるものと考えられます。

なお、ドル/円が2015年6月高値から調整局面に突入していると考えた場合、その調整は大きく3波(A-B-C)の構成になると考えるのがテクニカル分析のセオリーです。その形状がローマ字(大文字)の「N」に見えることから、この3波構成の値動きを「基本N波動」と称しています。この基本N波動をベースとして予測される当面の到達水準を基本計算値と言い、幾つかある基本計算値の一つに「N計算値」があります。

例えば、ドル/円の2015年6月高値から同年8月安値までを「A波」、そこから同年11月高値までを「B波」とした場合、次の「C波」が到達すると推測される値をN計算値として弾き出すと123.75円-(125.85-116.12)=114.02円という値が得られます。これは一般に言う目標値とは少々異なるもので、あくまでも「足下で形成されている波動においてバランスのいい水準」ということになりますが、当面の展開を予測するうえで一つの目安になるものと考えてもいいでしょう。

下図に見るように、ドル/円に再び強い下押し圧力がかかった場合、まず意識されやすいのは2015年8月安値=116.12円です。しかし、いずれ相場はバランスのいい水準に向かいやすいという見方からすれば、さらに目線は114円程度の水準を一つの目安として下がる可能性もあるということになります。

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振り返れば、2014年10月28-29日に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)で米当局は量的金融緩和(QE)の終了を決定し、その2日後の10月31日に行われた日銀の会合で所謂"日銀バズーカ第2弾"の号砲が放たれました。このとき日銀が演出したサプライズの余韻は週明けの11月3日になっても冷めやらず、同日のドル/円は114.03円で取引を終えています。こうしたことから、やはり当面のドル/円は「とりあえず114円程度まで下押す可能性もある(もちろん、場合によっては更に下方の水準まで到達する可能性もあり得る)」と考えておくことが必要ではないかと思われるのです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役