日銀によるサプライズ緩和の衝撃は、相場のムードを一変させ、今後の行方を予想するうえでの前提をも大きく変えてしまうこととなりました。追加緩和の必要性については以前から多くの支持がありましたが、このタイミングでの政策発動を事前に予測していた市場関係者は皆無に等しいと言え、当然のことながら多くの投資家の皆様が戸惑い、混乱しておられることと思います。

これまで、主要国の中央銀行は今後の政策方針について事前に情報を意図的に提供し(政策発動の可能性を匂わせ)、金融市場が徐々に織り込む様子を見守るという手法を用いるのが基本でした。それは「過度に急激な相場変動は好ましくない」という至極当然の姿勢に基づいたものであり、それを俗に「市場との対話」などと言ったりもします。その点からすると、今回の黒田日銀のやり方は決して好ましいものとは言えないでしょう。

ともあれ、結果は結果、現実は現実と受け止めざるを得ないことも確かで、ここからは実際にドル/円が一時114.21円まで上昇したという事実をすべての前提に、あらためてシナリオを構築し直す必要があるものと考えます。もちろん、その際には日経平均株価が一時17127円まで上昇したという事実や、NY金先物価格(12月限)が足下で1160ドル台まで下落しているという事実などを十分に考慮し、多面的にアプローチすることも忘れてはならないでしょう。

まず、シンプルにドル/円の節目らしい節目を幾つか拾い上げておくと、一つには直近高値の114.21円、それに10月1日高値から同月15日安値までの下げ幅を2倍して15日安値に足した値=114.98円などが挙げられることとなります。後者は115円ちょうどの心理的節目にも近く、多くの市場関係者や参加者が意識しやすい水準であることは言うまでもありません。また07年12月高値=114.64円、あるいは07年10月高値=115.91円などを目標値の一つに挙げる向きもあります。そこに過去の目立った高値が存在することは事実ですから、一応は頭の片隅に置いておくとしましょう。

逆に、ドル/円の当面の下値メドという話になりますと、あまり細かい節目というのではなく、単純に「目先は113円が注目され、下抜ければ112円、さらに110円・・・・・」などといった具合に、かなりアバウトに見積もる市場関係者が多いように思われます。先週31日以降の上昇があまりにも乱暴であったことから、当面はそれも致し方ないでしょう。

では、ドル/円の行方と切っても切れない関係にある日経平均株価の行方についてはどうでしょうか。昨日(4日)終値ベースでの株価収益率(PER)は前期基準で16.24倍、今期予想で16.28倍となっており、終値の16862円は過去の平均から見るとやや割高になっています。一方、NY金先物価格は世界の主要な産金会社の平均生産コストと言われる1トロイオンス=1200ドルを割り込んでおり、そろそろ底入れしてもおかしくないとされています。金価格から見れば、目下のドルは目先天井に近いということです。

もちろん、仮に日経平均株価の上昇が当面頭打ちとなり、NY金先物価格が目先底入れしたところで、独りドル/円だけが一段の上値を追うこともあり得なくはありません。とはいえ、日経平均株価が17500円や18000円をフェアバリューとするためには、構成225社の最終利益が一段と大きく伸びなければならないことも事実です。NY金先物価格が平均生産コストを下回ると、人員整理や操業停止に踏み切る産金会社が増えることもまた事実です。そういった点も十分に考慮して、今後のシナリオを再構築して行きたいものです。