ついに、ドル/円が200日移動平均線(200日線)を下抜けました。6月27日以降、昨日(7月1日)まで3営業日連続して終値で200日線を下回っているわけですから、これは「明確に」下抜けたという言葉を用いても差しさわりはないでしょう。もっとも、この200日線は現在も緩やかな上向きの状態で推移しているため、これを完全な弱気シグナルと断じることはできません。それでも、ドル/円が200日線をこれだけ明確に下抜けるのは「安倍政権が発足して以来初のことである」という事実は重く受け止めねばならないものと思われます。

振り返れば、12年2月安値(=76.02円)から今年(14年)1月高値(=105.44円)までの5波構成の強気相場は、まさにテクニカル分析の"教科書通り"(エリオット波動理論が示す通り)の展開となり、それだけに相場の予想も立てやすく、実際に一定の成果を上げることも十分に可能でした。この約2年間の強気相場をより長期的な視点から眺めますと、それは【第1波】の波動であったと考えられ、そうであるとするならば今年(14年)1月2日高値=105.44円から以降の展開は【第2波】の修正波=調整の動きが見られる局面であると考えます。

通常、この【第2波】はA-B-Cの3波構成になるというのがセオリーであり、筆者は2月4日安値(=100.75円)までがA波、4月4日高値(=104.13円)までがB波であると考えてきました。さて、問題はここからです。このA-B-Cの調整が一般によく見られる「ジグザグ(基本N波動)」のパターンであるとするならば、C波の終点はA波に終点よりも下方に位置することとなります。しかし、下図でも確認できるように、実際には直近安値が5月21日の100.82円までに留まっており、いまだC波が終了したとの感触は得られていないのです。

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ここで考えられることは、あくまで一つの可能性として、今後ドル/円が一段の下値余地を探り、少なくとも2月4日安値=100.75円よりも円高・ドル安の水準で【第2波】-C波の局面を締めくくるというものです。それは、場合により100円ちょうどの心理的節目を下抜ける水準となることもあり得るでしょう。さらに円高が進み、13年10月安値=96.57円を試すような展開となってもおかしくはないものと思われます。

6月28日付の日本経済新聞(朝刊)『スクランブル』は「『秋の波乱』備える個人」というタイトルで、最近一部の個人投資家が今秋に向けて相場に波乱が生じると考え、それに備える動きを水面下で見せていると伝えていました。それは、早ければ10月にもFRBが量的緩和第3弾(QE3)の幕を引くことや11月の米中間選挙で与党の劣勢が伝えられていること、イラク情勢の先行きが不透明なこと、日本の年後半における物価の伸び率が想定通り再加速するかどうかは定かでないことなどにより、秋口に様々なイベントリスクが重なるとみている個人が少なくないということです。

仮に幾つかのイベントリスクが実際に生じることとなり、市場全体が一時的にもリスク回避的なムードに包まれれば、一旦はリスク回避の円買いが進み、一方で日経平均株価が調整場面を迎えるといったようなことも可能性としてないとは言えません。今は数十年に一度というレジーム・チェンジのときなのであり、そこに多少の波乱は付きモノであると考え、一応の心構えを持っておくことも必要ではないかと思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役