周知の通り、先週5日に行われた定例の政策会合(理事会)においてECBは政策金利の引き下げとマイナス金利の導入を決定しました。決定内容の発表直後にユーロは対ドル、対円で一時的にも大きく値を下げましたが、ほどなくユーロは値を戻す展開となり、同日のユーロの日足ロウソクは対ドル、対円ともに長い下ヒゲを伸ばす格好となったわけです。

しかし、そんなユーロの戻りも現在は自ずと限られたものになっています。それはECB理事会後の会見でドラギ総裁が「これですべてが終わったわけではない」と述べたことも一因と言っていいでしょう。この発言を受けて市場には「次の一手」が繰り出される可能性もあるとの憶測が拡がり、徐々にユーロの買い戻しに消極的となったのです。

「次の一手」として考えられるものの一つは、やはり「量的緩和」ということになるでしょう。もちろん、これまで英・米・日が実施に踏み切った量的緩和の事例とは異なり、ユーロの場合は「緩和資金で一体、どこの国の債券を購入するのか」などといった疑問や技術的課題が残ります。しかし、過去の功績によって一種のカリスマ性を発揮するECB総裁のマリオ・ドラギ氏のことですから、市場には「思いもよらなかった奇策が飛び出すかもしれない」という見方があることも事実でしょう。

昨今、何かと話題のMIT(エムアイティー)人脈をご存知でしょうか。それは過去に米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部と関わりを持った人々の人脈であり、かつてMITの教授を務めたフランコ・モディリアーニ氏&同僚のスタンレー・フィッシャー氏に指導を受けた人々などのことです。実は、前FRB議長のバーナンキ氏はフィッシャー氏の弟子であり、現イエレンFRB議長の夫であるジョージ・アカロフ氏はモディリアーニ氏の弟子でした。同じモディリアーニ氏の弟子にはECB総裁のドラギ氏も名を連ねており、その意味からするとドラギ氏も決して量的緩和の実施を完全に封印しているわけではないと考えることができそうです。ちなみに、リーマン・ショック後に最も大胆な量的緩和を実施した前BOE総裁のキング氏や現日銀総裁の黒田氏もMIT人脈との関わりがあります。

ECBに「次の一手」があるとすれば、やはり当面はユーロ買いに消極的にならざるを得ないでしょう。実際、足下ではユーロが対ドル、対円で再び弱含みとなっており、ことにユーロ/円はチャート上、これまでとは明らかに異なる"症状"が見て取れるようになってきました。それは、一つに長らく下値を支えてきた200日移動平均線(200日線)をクリアに下抜ける可能性が強まっていることからも明らかです(下図参照)。

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そもそも、ユーロ/円は長らく一目均衡表の日足「雲」下限に下値を支えられ続けてきました(上図の赤点線)。今年2月4日に安値をつけた時点では日足「雲」下限を下抜けていますが、それでも昨年4月3日安値と11月7日安値を結ぶ中期のサポートライン(上巣の水色点線)に下値を支えられることとなりました。まして、その時点での日足「遅行線」は日足「雲」よりも上方で推移しています。

ところが、現在のユーロ/円は前述したサポートラインに次いで日足「雲」下限をも下抜け、さらに「遅行線」までもが日々線と日足「雲」下限を下抜けています。つまり、以前とは明らかにチャート・フェイスが変わっており、ともすると一気に弱気ムードが強まりそうな状況にあるということなのです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役