私は幼稚園生の頃に黒白フィルムの現像を始めました。ダークバッグに手を入れて、パトローネを開けてフィルムを引き出し、リールに巻いて、それからダークバッグから出して現像液を入れ、温度を計りながら時間を調整し、そして停止・定着の工程へと。小さくて非力な子供には、パトローネを開けるのが難儀で、ダークバッグの中で机に叩き付けたりして開けていたものです。
高校生になってからようやく写真部に入り、光の漏れるボロボロの部室で、仕方なしに夜に学校に戻って来て、出来れば月の小さい日に、大きい印画紙への焼き付けなどもしました。しかしこれらは高校までのこと。以来現像の類いは一切やらず、写真を撮ることですら、ほとんどやらなくなってしまいました。しかし今でもカメラは大好きで、実は写真を撮ることにも自分なりのこだわりはあるのです。
そんな私が、本当に久し振りに現像室や暗室を訪れる機会がありました。今は昔、使い込まれていても良く整備されている作業室は、あの酢酸の臭いはほとんどしませんでした。或いは健康への配慮から、使う薬品自体があまり臭気を発生しなくなっているのかも知れません。しかしそれでも尚、あの懐かしい臭いがぷ~んとしました。長い、綿々とした年月受け継がれてきたものを感じました。
写真は奥が深いものです。テキトーに撮っててもダメですよね。私の場合、かつて深くやり込んだ時期があるために、逆に淡々と撮ってしまう嫌いがあるのです。
たまにはちゃんと考えて撮ってみようかなと、酸っぱい臭いを感じて、久し振りに一瞬思ったのでした。臭覚は記憶を刺激しますね!