前回の本欄では、2011年の8月に起きた市場での出来事を振り返りました。欧州各国の要人が次々と長期の夏季休暇に入るなか、金融市場安定化の大役を任されたECBが証券市場プログラム(SMP)を通じて巨額の国債購入に踏み切ったという出来事です。
考えてみれば、その立派な「実績」があったからこそ、去る2日のECB理事会では国債購入の用意があるとの考えは示唆したものの、その時期や規模について具体的には触れずに済んだとも言えるでしょう。イザとなれば"実弾"はいつでも打てますし、2011年の「実績」もあります。よって、とりあえず『打つぞ!』と口先介入さえしておけば、それなりに市場の混乱は沈静化するでしょうし、それでも沈静化しなければ本当に"実弾"を打てばいいわけです。
とはいえ、欧州の問題が解決の方向に向かっているわけではまったくなく、いまだユーロや英ポンドは買うに買えないし、売るに売れないという状況。また、消去法で買われるとされる円も上値には強い介入警戒感がありますし、かといって追加緩和観測の根強いドルやユーロを対円で積極的に買い上げるという状況でもありません。
その点、主要国のなかで追加緩和の必要性が低いと思われるのは豪ドルであり、実際に8月7日、豪準備銀行(RBA)は政策金利を現行の3.50%に据え置くことを決定し、政策声明では「さらなる利下げの可能性が低い」ことも示唆しました。
もちろん、欧州や中国などにおいて景気減速懸念が強まっていることは、豪州にとっても困りものです。結果的に、大半の商品価格が低下傾向を示しており、豪州からの輸出も伸び悩んでいます。それでも、2012年1-3月期の豪国内総生産(GDP)は事前の予想を上回り、さらに4-6月期についても堅調な伸びが見込まれていることから、当面は追加的な利下げへの圧力も自ずと後退するものと見られています。
つまり、豪ドルは今、他の主要通貨に対して唯一積極的に買って行くことのできる通貨であると考えていいものと思われます。下の図は、今年の2月初旬以降における豪ドル/円の値動き(日足)を示したものですが、実際、6月に安値を付けてから今日まで基本的には強気相場が継続しています。
本欄の2012年7月18日更新分でも示した通り、豪ドル/円は7月4日に一目均衡表の日足「雲」上限を上抜けたことで、晴れて強気のシグナルとされる「三役好転」と相成りました。
ただ、その後はしばらく89日移動平均線(89日線)に上値を押さえられる格好で価格調整を余儀なくされ、7月25日には一時的にも80円台を割り込む場面を垣間見ています。ただし、同水準ではセオリー通りに一目均衡表の日足「雲」上限が下値を支え、その後の反発局面では89日線を明確に上抜け、次に7月4日高値(4月11日安値でもある重要な節目)をも上抜けて、ついに3月高値から6月安値までの下げに対する61.8%戻しの水準にまで到達してきました。今後、この61.8%戻しの水準を明確に上抜けると、過去に強力な上値抵抗となった4月13日高値(3月4日安値でもある重要な節目)=84.81円を意識した展開となることが予想されます。
ちなみに、今週9日には中国で複数の主要経済指標が発表される予定です。結果によっては一時的にも相場がブレる可能性もありますので、そこは注視しておきましょう。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役