フランスの大統領選(決選)とギリシャの総選挙が終わり、両国の今後の動向が不透明であることから、当面はどのような「材料」飛び出すかも知れず、目下の外国為替市場は混沌としたムードに包まれています。そこで今回は、少し大きなところから今後の外国為替市場に対する一つの見方について触れておきたいと思います。

この4月、筆者は資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏が著された「食糧危機にどう備えるか」(日本経済新聞出版社)という書物に目を通していました。そこには、まさに衝撃の事実と将来予測、それらを裏付ける詳細なデータが網羅されており、個人的に大きなショックを受けました。そんな矢先のこと、筆者の目に驚愕のニュースが飛び込んできます。

それは日本経済新聞2012年4月24日付朝刊の記事であり、そこには「中国税関総署によると、中国のトウモロコシ輸入量が2011年12月―2012年2月の3カ月間で前年同期の100倍に達した」と記されていたのです。その一方で、中国は自国内でのトウモロコシ生産量も急激に拡大(2011年は前年比+8%)させています。それにも拘わらず、輸入量が100倍増というのですから、いかに爆発的にトウモロコシ需要が急増しているかがわかります。

需要急増の原因は「中国の消費構造が変化して豚肉の消費量が飛躍的に増え、豚の飼料となるトウモロコシの需要が拡大しているため」。記事では「中国が急拡大する需要を賄うために輸入の米国依存をあらため、トウモロコシはウクライナなどから輸入を開始、小麦はオーストラリア産の比率を高めている」としていました。

実のところ、かつては長らくトウモロコシの価格が小麦の価格よりも安い状態が続いていまして。よって、中国もトウモロコシを主に飼料として使っていたのです。しかし、いまやその関係も逆転しており、今後は代替飼料としての小麦需要が一気に拡大傾向を強めるものと推察されます。

もう、今回の話の流れが見えてきましたね。そう、小麦と言えば豪州であり、データで確認すると豪州における小麦の作付面積は1990年以降、拡大傾向にあることがわかります。これは、生産地域が重なる羊産業が減退傾向にあり(下図参照)、結果的に農地の小麦栽培への転用が進み、作付面積が増加したという事情もあるようです。

もちろん、豪州よりも小麦生産が盛んな国はインド、米国、ロシアなど数あります。ただし、近年は天候異常によって生産の浮き沈みが激しいことから、日本を含む小麦輸入国はリスク分散の観点から北半球の小麦生産地とは地理的に離れ、季節も逆である豪州産小麦への注目度を高めているという点も見逃せません。まして、豪州ではかねてから牛肉や乳製品、羊毛などの輸出も盛んであり、国内における飼料用小麦の需要も高水準で推移しています。

前出の柴田明夫氏曰く「穀物価格は1990年代までの安価な水準から新たな水準へと均衡点価格の変化が起こっている」。この10年内にも世界が新たな食糧争奪時代に突入すると言われる昨今、世界でも限られた穀物(資源)輸出国が注目の度合いを高めるのは自明であり、そうした国々の通貨を長い目で保有することを検討することは、穀物(資源)輸入に依存する日本という国に生きる私たちにとって、非常に重要なことではないかと思われるのです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役