連休明けの今週、気になるトピックの一つは、国内第一位の製薬会社・武田薬品工業の超大型買収の最終合意の行方です。相手先のバイオ医薬会社シャイアー(アイルランド)に拒否され続けた結果、最終提示価格は、当初提示額から1割強引き上げられ、460億ポンド、約6.8兆円となりました。成立すれば日本企業の海外買収としては過去最大となります。
武田は、買収資金として、現在の有利子負債1.1兆円の3倍近い3兆円規模の融資を受けるとともに、現在の株数と同数近い新株を発行する可能性があります。これらのリスクを反映し、武田の株価は年初から30%下落しています。
武田はこの10年で、既に2.7兆円もの海外買収を行っています。しかも今回はこれらを束ねた額のさらに2.5倍以上の規模ですから、武田にとっては大きな賭けです。
武田は業界最大手ですし、国内でどっしり構えていてもよさそうにもみえます。にもかかわらず、これだけの買収に踏み切った背景には何があったのでしょうか。
まず、国内医薬品業界の見通しです。世界の主要国の中で唯一、今後5年間で縮小すると予想されています(米医療情報サービスのIQVIAによる)。薬価の改定はこれまで2年に1度で、毎回のように引き下げの憂き目にあっているのですが、さらに、2021年度からは毎年見直されるようになります。長期的には、健康保険料の改定や、IT化が効きやすい薬剤師の技術料等の広範な見直しが必要になってくるでしょうが、当面は薬価への圧力は続きそうです。
第二に、新薬開発合戦の厳しさです。研究開発には創薬の気概とともに事業規模が必要ですが、日本は圧倒的な劣性です。世界トップのロシュは武田の3倍以上の売り上げで、4倍以上の研究開発費をかけています。今回の買収で武田は世界のトップ10に食い込める可能性があります。
そして最後の要素は、銀行の融資姿勢です。日米の銀行の余剰資金は、史上最高の580兆円にも上ります。金利についても、上昇しつつあるとはいえ、まだ絶対水準としては十分安いといえます。今回の件でいえば、金利が1%上昇すれば年間の利払い額は300億円増加します。これはシャイアーのフリーキャッシュフローの1割弱にも相当します。大型買収になればなるほど、金利上昇が痛手になります。
これらの点から、世界の製薬業界では活発なM&Aが続くと予想されます。ライバルが大型買収を行えば、証券会社から他社にも同様の案件が持ち込まれるでしょう。また、金利の上昇とともに株式調達の割合が高まる可能性もあり、希薄化による株価への悪影響が懸念されます。製薬業界再編の動きには注意が必要になりそうです。