謹んで新春のお慶びを申し上げます。実に様々な「危機」に明け暮れた2011年が過ぎ去り、期待溢れる新年がスタートしました。この2012年が、外国為替相場と向き合う投資家の皆様にとって、ある意味で「良い年」となりますことを祈念しつつ、新年1回目の今回は「2012年相場を展望するうえでの注目ポイント」をあらためて整理しておきたいと思います。

まずは、何と言っても欧州債務危機とユーロの行方。周知の通り、ユーロ/ドルは昨年12月29日に1.2858ドルの安値を付け、ついに昨年1月安値=1.2873ドルを割り込みました。また、ユーロ/円は年明けの1月2日に99.37円まで値を沈める場面を垣間見ており、市場のユーロに対するセンチメントは弱気に傾いたままです。

ユーロ一段安の下で越年となった直接的要因は、他でもなくフランス格下げの「噂」でした。これは、本欄の昨年12月28日更新分において指摘したイタリアの問題とも強く結び付いており、イタリアの債務危機が深刻化するほどイタリア国債を多く保有するフランスの金融機関が経営不安に陥り、その救済のためにフランス政府が乗り出すならば、それがフランスの財政を圧迫するとの連想から発している不穏な噂です。

欧米格付け各社の立場になって考えれば、今後も引き続きフランスの格付けを最上級(トリプルAまたはそれに準じるランク)に据え置き続けることが難しくなる可能性も否定はできません。仮に、フランス格下げということにでもなれば、そうでなくとも頼りない欧州の危機支援体制は機能不全に陥り、ほどなく「格付けショック」は現実のものとなってしまうでしょう。とどのつまり、フランス格付けの行方はイタリアの債務償還が握っていると言え、それが2012年2-4月に集中していることから、多くの市場関係者は2012年1-3月期が「混乱の極み」となり得ることに警戒を発しているのです。

加えて、4月下旬にはフランス大統領選の第1回投票が行われることとなっており、苦戦が伝えられる現職サルコジ大統領の敗色濃厚となれば、目下の独仏連携体制に歪が生じる可能性があるという意味で、これもリスク要因となり得ます。

ユーロ/ドルやユーロ/円は、テクニカルな観点からすると、このあたりで一旦下げ止まってもおかしくはない状態にあります。また、本欄の昨年12月21日更新分で指摘したシカゴ筋の取り組み状況からしても、そろそろ買い戻しの動きが強まってもおかしくはない状態です。にも拘わらずユーロの戻りが鈍いのは、ぞれだけ先々の危機の可能性が深刻極まる状況であることを指示していると言えるでしょう。

一方、米国経済の足元の状況はそこそこに堅調と言えます。発表済みの2011年11月、12月分の各指標は多くが緩やかな改善傾向を示しており、今のところ二番底に陥るとの懸念は薄らぎつつあります。それでも、昨日(3日)に公表された昨年12月13日開催分のFOMC議事録には「多くのメンバーは追加緩和が正当化されると示唆」と記されており、米FRBはなおも警戒を緩めていないことが明らかにされました。

それは、言うまでもなく欧州の問題が一段と混乱すれば、それは米国にとっても他人事ではないからであり、以前からバーナンキFRB議長が述べている通り、物価安定という大前提さえ担保されれば追加緩和という景気回復促進策を講じる可能性は十分にあるものと考えることができます。

聞けば、ある米銀の主席エコノミストは「2012年1月あるいは3月のFOMCでは、ディスインフレのリスクに再度触れ、3月あるいは5月のFOMCで最大7500億ドル相当の量的緩和策第3段(QE3)の開始を発表されるだろう」との見解を明らかにしているとのことです。足元の米景気が堅調であれば、QE3の開始はドル買い要因となるものと見られます。

末筆ながら、2011年7月来のご愛読に感謝申し上げますとともに、本年も変わらぬご愛顧を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

コラム執筆:

田嶋 智太郎

経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役