お分かりの通り、外国為替相場には株式相場と違って「出来高」という概念がありません。そのため、市場参加者のセンチメント(投資家心理)や取り組み状況(ポジショニング)などを推し量るための手掛かりは自ずと限られてしまいます。

そんな数少ない手掛かりのなかでも、比較的よく活用されるのがシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)に上場している通貨先物取引の建て玉明細。これは米商品先物取引委員会(CFTC)が毎週金曜日の取引終了後に、その週の火曜日時点の取引内容を発表するもので、幾つかの分類があるなかでも「大口投機家(非商業部門)」によるポジショニングが特に注目されています。

これは、俗に「シカゴ筋」のポジションと呼ばれ、必ずしもシカゴ筋が好き勝手に相場の行方を左右しているわけではないのですが、ある意味、彼らの取り組み方は相場全体の縮図と考えられ、そのポジションの偏りを知ることによって全体のムードが推し量られるという点で常に注視しておきたいものと言えます。

リンク先の図は、シカゴ筋によるユーロの取り組み状況を示したもので、ユーロの買い(ユーロ・ロング)残高からユーロの売り(ユーロ・ショート)残高を引いた「ネット残高」の推移を見てとることができます。つまり、0(ゼロ)よりも上ならば「買い越し」、0よりも下ならば「売り越し」ということで、単位は取引枚数(枚)となっています。

以下の図を見ればわかる通り、シカゴ筋は今年の9月以降、ユーロの売り越しに転じており、11月中旬あたりから売り越しが一気に増加して、直近12月13日時点の売り越し枚数は11.65万枚程度にまで膨らんでいます。過去に最もユーロの売り越しが増えたのは、昨年6月にユーロ/ドルが1.1876ドルの安値を付けた時点で、当時の売り越しが11.19万枚でしたから、ここでついにユーロ導入以来の過去最高を更新したこととなります。

図:株式会社アルフィナンツ作成

※グラフをクリックいただくと拡大版をPDFファイルでご覧いただけます。
目下は、それだけ「ユーロ売りの圧力が強まっている」ということなのですが、別の見方をすれば、それだけ「買い戻しの圧力も強まっている」ということにもなります。つまり、ともするとシカゴ筋がこれまで積み上げてきた売りポジションを一旦手仕舞う=買い戻すことで、一時的にもユーロが強く上へ押し上げられる可能性もあるということになるのです。まして、執筆時はクリスマス休暇の直前ということもあり、ここで一旦ポジションを整理しておこう考える向きが増える可能性もあるでしょう。

その実、ユーロ/ドルは12月14日の1.2946ドルを直近安値とし、その後はジワリと値を戻す展開になっています。そこで重要となるのが、次にCFTCが2011年12月23日に公表する2011年12月20日時点の建て玉明細です。ここで、ある程度売り越し枚数が減っていたことが確認されれば、週明け以降、再びユーロ売り圧力が強まる可能性もありますし、逆に売り越し枚数があまり減っていなければ、いましばし買い戻しの流れが続く可能性もあると考えるわけです。

コラム執筆:

田嶋 智太郎

経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役