前回の本欄では、2011年10月26日に発表された豪州の第3四半期(7-9月期)消費者物価指数(CPI)が低水準に留まったことで、今後の豪州準備銀行(RBA)の金融政策運営に影響が及ぶ可能性について触れました。そして昨日(11月1日)、RBAは政策金利を1年ぶりに引き下げることを決定したと発表。発表後の豪/ドル円は最大で2円近くもの値下がりとなりました。

この日の豪ドル/円の下げは、必ずしも利下げの決定だけが材料となったわけではありません。ただ、結果的に81.00円を割り込んだことで、10月31日に日本政府が実施した円売り介入に伴って一時84.00円近辺まで上昇した分は、すっかり帳消しになってしまいました。その一方で、ドル/円は介入後に一時的につけた79.50円近辺の水準からは多少なり円高方向へと戻しているものの、なおも執筆時においては78.00円台前半の水準をキープしています。

今回の介入が市場の意表を突くタイミングで実施されたことや、過去最大規模と見られる本気度の強いものであったことは確かですが、日本政府が単独での介入を実施しただけで「これまでの円高基調を円安基調へと転換させることは難しい」と見る向きが多いことも事実です。ただ、結果的にドル/円の位置するところが大きく円安方向へ移動したことで、いわゆるチャート・フェイス(チャートから受ける印象)、テクニカル分析を行う際における発想の源が変わるという点は必ずしも軽視できないものと言えるでしょう。

下のチャートを見てもわかるように、今回の介入の結果、まずは中期的にドル/円の上値を押さえていた2011年4月高値と同7月高値を結ぶレジスタンスライン【A】を上抜けることに成功しました。

図:株式会社アルフィナンツ作成 ※グラフをクリックいただくと拡大版をPDFファイルでご覧いただけます。
図:株式会社アルフィナンツ作成 ※グラフをクリックいただくと拡大版をPDFファイルでご覧いただけます。

さらには、大よそ半年ぶりに一目均衡表の日足「雲」上限を上抜ける結果ともなっています。この日足「雲」上限は現在、1ドル78.08円のところに位置しており、目下のところは同水準が下値支持役として機能していることも明らかと言えるでしょう。

 ただ、介入後の価格上昇をもってしても、2010年5月高値と2011年4月高値を結ぶレジスタンスライン【B】を上抜けるまでには至りませんでした。また、実は2007年6月高値と2010年5月高値を結ぶ長期のレジスタンスラインも同じところに位置しており、今後はこれらの上値抵抗を破れるかどうかが大きな意味を持ってくることとなります。

 今後、仮にこれらの上値抵抗を破って、さらに2011年8月高値=80.24円を上抜けてくると...もはや76円、75円といった水準は相当に遠いものとなり、過去40年来の円高の歴史に終止符が打たれるとの感触が強まる可能性もあります。

コラム執筆:

田嶋 智太郎

経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役