10月26日、豪州の第3四半期(7―9月期)消費者物価指数(CPI)が発表されました。結果は、前期比+0.6%、前年比+3.5%と市場の事前予想どおりであったにもかかわらず、発表を受けて豪ドル相場は大きく下押ししています。それは、同時に発表された「刈り込み平均値(トリム平均値)」が、前期比+0.3%、前年比+2.3%と、市場予想の其々+0.6%、+2.7%よりも大幅に低い数値であったことによるものと考えていいでしょう。
このトリム平均値というのは、CPIを構成する品目の価格変化率分布の両端から、一定割合の品目を控除(すなわち、価格が他の品目に比べて著しく変動している品目を集計上無視)し、残った品目の価格変化率を加重平均したもので、基調的なインフレ率(インフレの長期トレンド)を反映する重要な指標として広く用いられているものです。より厳密に言うと、豪州準備銀行(RBA)は、このトリム平均値と加重中央値(今回は前期比+2.6%)を足して2で割った「RBA基調インフレ(今回は前期比+2.45%)」を金融政策運営にあたって大いに重視しています。
よって、この値が市場予想の前年比+2.7%を大きく下回ったことは、今後のRBA理事会(次回は11月1日開催)において政策金利の引き下げが行われる可能性を、強く市場に匂わせるものとなり得るのです。ちなみに、RBAは2010年11月に利上げを実施して以来、長らく政策金利を4.75%に据え置いてきました。それだけに、もしも利下げ実施ということになれば、豪ドル相場に与えるインパクトはそれなりに大きなものとなる可能性があると言えるでしょう。
もっとも、前述したようにトリム平均値は価格が著しく変動している品目を無視することから、ときに原油価格の変動をつぶさに反映しないこともあります。これはインフレの長期トレンドをつかむためには良いことなのですが、過去の豪ドル/円の価格推移が「WTI原油(先物)価格と非常に強い相関関係にあることもまた事実である」ということも無視はできません。
もちろん、豪ドルが世界全体の景気動向に非常に敏感な通貨であるのと同様に、原油価格というのも米国を中心とした世界の景気動向には敏感です。よって、RBAが利下げの判断を下さねばならないほど、豪州景気の先行きが不安視される状況下では、遅かれ早かれ原油価格も弱含んでくると考えることもできるでしょう。
豪ドル/円の先行きを展望する際には、RBAの金融政策運営を考慮すると同時に、原油価格の動向も大いに参考としたいものです。
コラム執筆:
田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役